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第350話◇
4限が終わった。
「じゃあ、また明日ねー」
授業の道具を手早く片付けて立ち上がり、皆に別れを告げて、教室を出た。階段を下り、校舎を出る。何人か途中で友達に会いながら、挨拶だけして通り過ぎる。
別に絵の教室は、何時からと決まってる訳じゃないし、急ぐ必要はないんだけど。いつもは、ただ早く絵を描きたいから急いでいってたけど、今日は少し違う。
なるべく早く着いて、描きたいだけ描いて、早く玲央の所に行きたいから。
玲央の所に行きたいからって、描き終わらないで帰るのは違うと思うし。
なるべく早く、 描き始めたい。
そう思って、何となく帰りに見る習慣がついている、掲示板の前に向かって階段を駆け下りていく。
この掲示板に貼られるものは、大学のサイトにも載るんだけど、少し後だったり、たまに漏れたりするから、なんとなく、ここを見るのが習慣。
まあ急に、休講になったとかなら、クロの所に行っても良いし、図書館とかで本を読んでもいいし。だからあんまり当日の朝にサイトをチェックする事もしていない。
とりあえず明日の休講とかの予定は無し。
それ以外の連絡もなし。 よし、行こ。
そう思った時、後ろから声がかかった。
「あ、優月ー」
「あ、美咲」
「今から絵?」
「うん」
笑顔で答えると、美咲も、「ほんと、楽しそうだよねえ」と、ふ、と笑う。
「いってらっしゃい」
「うん、またね?」
そう言って、歩き出そうとしたら。
「あ、優月、チョコ食べた?」
「……っ」
その言葉に、一瞬で、ドキ、と胸が、弾んだどころじゃない。
もう破裂?気味。
ドクドク、しだした。
「あ、た、べた……」
というか。
食べさせられた……けど味わかんなかった……。
わー、バカバカ、オレ、思い出すなー!
「美味しかったでしょ?」
「うん」
うんうん、とめっちゃ頷いて見せる。
美咲はクスクス笑いながら。
「どれが好きだった?」
そう聞いてくる。
味。甘いってことしか、分かんなかった……。
味比べなんて、出来る筈が……。
「……まだ、残ってる」
うん、1個、食べてない。
2個は……食べたけど……。食べた…………。っていうのかな、あれ。
わー、思い出しちゃダメだってば。
もう無理だ。顔、少し、熱い。
美咲に変に思われないように。辛うじて、返事はしてるけど。
なんか、気が遠くなりそうな気持ちになってきた。
さっきのキス、思い出しそうで。
「なんか、優月顔赤い。大丈夫?」
「あ、…うん、あの――――……」
「あ、急いでたよね、走ってた?」
……美咲、ありがとう。
そっちで取ってくれて。
「う、ん」
「ごめん、呼び止めて。またね!」
美咲が笑顔でバイバイ、と言う。
オレは、またね、と告げて、美咲に背を向けて、急ぎ足で歩き始めた。
うわーん、もうー、玲央のバカ―!
チョコの話、美咲と、出来ないよう……!!
顔を手の甲で、少し擦って。
熱いし……っ。ともう、誰にも話しかけられないように、少し俯き加減で、構内を進み、車道に出た。
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