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第352話◇

「……何かイライラするんだけど」 「……え?」  突然の、ちょっとムカムカした感じに。  戸惑っていると。 「何でお前は、玲央はオレのだし、みたいな顔しねーの?」 「……え、だって玲央、オレのモノではないし……」 「……玲央がお前が好きって言って、セフレと別れてんのに、なんで好きか分かんないとか、意味わかんねーし……」  はー、と奏人くんが、ため息を付いてる。  一応、セフレとかのところは、小さく言ってるから、まだ、冷静ではあるみたいだけど……。 「……いっつも、クールで、でもなんかたまに優しくてさ。――――見てるだけで目の保養だし。一緒に歩いてると、ほんと、すげーカッコいいし」 「――――」  玲央の事だよね。  ……目の保養、は分かるけど……。  クール……。  ……オレにとっての玲央は、クール、ではない。  もちろん見た目はそんなイメージあるんだけど。カッコいいし。  でも……どっちかというと、優しすぎて、熱っぽい。  でも、今までの玲央はきっと、ずっと、クールなまま、人と接してきたんだろうなと。それで良いと思ってたって、玲央言ってた気がするけど……。 「……なんか、何もかもどーでもいいみたいな冷めた感じが、めちゃくちゃカッコいいと思ってたし」 「――――」 「……それをこっちに振り向かせたいって、すげー思ってたんだけど……」 「そう……なんだね」  ……そんな風に、好きだったんだ。  そっかー……。  ――――ていうか、こんな風に、言ってるけど。  奏人くんはきっと、玲央の事、全部好きだったんだろうなあと感じてしまう。もうそれは感覚でしかないんだけど。  クールな玲央を振り向かせたいけど……セフレって関係だとそんなに動く事も出来なかっただろうし。玲央、好きになったら終わりとか、最初に、言っちゃってたんだろうし。  どんな気持ちなんだろう。  ずっと好きな人とそういう事だけはしてるけど、好きとも言えず、平気なフリして側に居るって。  オレ。  ……玲央に、好きかって聞かれて。  好きって言えなかった時。 ――――あんなに、辛かったのに。  胸が痛くて、たまらなくなってくる。 「――――ってオレは何でお前にこんな話……」  はー、とため息をつきながら、オレを見て。 「……は?」  と言われて。あ、やばい、と思って、目を逸らそうとしてるのに、のぞき込まれた。 「……何で涙目??」  言われて、ああもう、ほんとオレのバカ、と思った瞬間。 「ごめん、なん、でもない……ゴミが……」 「――――」  絶対信じて無さそうな顔で、奏人くんはため息をついた。   「……こないだオレがキスして帰って、どー思った?」 「――――ほんとに好きなんだなあって思ったけど……」 「ムカつかないの?」 「―――― え……んー……難しいな。……嬉しくはないけど、ムカつくかって言われたら、ムカつくとは違うような……」  首を傾げていると。 「……あーもう、ほんとにライバルって思うには、張り合いなくて、ほんと腹立つ、何なの、お前」 「――――」  何なのって言われても……なんて答えるべきなのか……。  困ってると、奏人くんは、オレをじっと見る。 「オレ玲央といくつか授業一緒だし、話すからな」 「うん……」 「一晩とか、誘うかもよ」 「……う、ん」 「……うんじゃねえだろ、やめろって言えよ」 「そんな事言ったって……」  困ってる間に、駅前についてしまった。  なんとなく、駅の前で足が止まる。 「……何また、オレの勝手?」 「――――ん……というか……」 「――――なに?」  今まで隣で歩いていたけど、今は目の前。  まっすぐ見つめて。 「……オレが玲央を好きなのも、奏人くんが玲央を好きなのも、一緒だと思うから、オレにそれをやめてとか言うことは出来ないし……玲央が奏人くんとか、他の誰かをいつか好きになっても、それを止める事は出来ない……と思うんだけど」 「――――」  奏人くんは何も言わない。   「玲央がオレと居てくれる時間は、大事にする、から……」 「――――」 「なんていうか……あの……ごめんね……?」  もうなんか、最後なんて言っていいか分からなくてそう言ったら。 「……お前と話すとなんか、疲れるな……」 「……ごめん」  ごめんしか、言えなくて、俯くと。 「……なんかもう――――ホント疲れた」  もう一度同じようなセリフを言われて、うう、と思うと。 「……オレ、モテるんだよね」 「……そう、だろうね」  素直に頷けてしまう。  綺麗だけど。可愛くもあるし。カッコいいし。  見惚れちゃう位。  何だかものすごく長い沈黙があって。  え。どうしよう。  オレが、何か言うべき間なのかな。  え、でも、何を……??  と、内心めちゃくちゃ慌てていたら。  奏人くんが、大きなため息をついて。   「……玲央は好きだけど。――――もうオレ、他も探すし」 「――――え?」 「何だよ?」 「……他も探す???」 「他探す。……もうなんか、意味わかんねえもん、お前。こんなんを好きな玲央とか、もうほんと意味わかんないし。なんか、今すごいイライラしてるけど……」  うぅ。なんだか、あんまりな……。  こんなんて……。 「……もういいかなって、ちょっと、思った。ムカつくけど」 「――――」  なんだろう。  なんて答えるべき……?? 「……じゃあな。 優月だよな、名前」 「え。あ、うん」 「奏人くんって気持ち悪いから、やめて」 「え? きもちわるい……??」 「……今度そう呼んだら、蹴り入れるから」 「――――ん???」  その言葉に、奏人くんを見つめると。  何だか、ちょっと――――。   面白そうな顔で、少し笑って。     ……苦笑いみたい、ではあったけど。  ――――笑ってくれたの、初かも……。  返事が出来ないでいると。 「じゃあな。お前と話してると、マジで疲れるから、帰る」  そう言うと。 颯爽と、ていう言葉がぴったりな感じで。  ――――改札に消えて行ってしまった。  えっと。  ……えー……と。  よく分かんないけど。  ……ちょっと普通に話せたかも??    ――――「奏人くん」気持ち悪いって……。  今度そう呼んだらって……。  ――――他の呼び方なら、呼んでいいのかなぁ……?  謎。    でも。  なんか、少し、笑ってくれた。  何となく嬉しい。とか。思っていいのかな。  よくわかんないけど。  分かんない事ばっかりだったけど。  ホームに向かう、足取りは。  なんとなく、軽かった。

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