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第355話◇

 勝くんが帰るまでは一緒に楽しく描いて。  その後は、集中。  ふと気づいて、顔を上げたら、窓から見える空はもう暗くなっていて。  時計を見ると、もう勝くんが帰ってから、ずいぶん時間が経っていた。  あれ。  ――――……玲央は……今どうしてるんだろ。  集中しすぎて、時間の経過、全然分かってなかった。  ズボンのポケットからスマホを取り出しながら。  でもさすがに、玲央から連絡が来て、スマホが震えたら気が付いてるはずだから……まだ、来てないよね?  思いながら指紋認証で画面を開けて、玲央との画面を開くと。  まだ何も入ってなくて。  良かった。まだだった。  ――――……そしたらもう、今日はあとは、少し仕上げ気分でのんびり書いて、玲央が来てくれたらいつでも出られるようにしておこうかな。と思った瞬間。 『駐車場についた。終わったら出て来て。曲作ってるからゆっくりで大丈夫』  そんなメッセージが玲央から入って来た。  あ。もう。すぐ近くに居るんだ。  ――――……もうなんか、すごく嬉しい、としか、思えない。  気づいたら、今はオレを入れて、3人だけ。  あとは、久先生と希生さん。  人の出入りに気付かない位、久しぶりに夢中で描いたかも。  先週は、玲央との事があったから、全く集中してなかったし。  立ち上がって、教室を出た。  玲央に電話をかけると、すぐに通話が開始された。 「あ、玲央?」 『優月、どした? 終わりそう?』 「うん、今日はすごい集中してたから――――……もう良いかなって」 『そっか。迎えに行く?』 「あ、駐車場、すぐ目の前だから……ちょっと待ってて」  離れから、門に向かって、外に出る。目の前の駐車場。  近付きながら、3台停まってる内のどれだろう、と思って。  なんかあれが玲央っぽいなあ。白のスポーツカー。  そう思った瞬間、その車のドアが開いて、玲央が出てきた。 「優月」  何か、笑ってしまう。  スマホの通話を切って、玲央に駆け寄ったら、笑われて。 「何だよ? 楽しそう」 「玲央っぽい車、て思ったら、出てきたから」 「そう?」 「うん」  車詳しくないけど。この車は、玲央にすごく似合うなと思ってしまう。 「カッコいい車だね」 「親父のだけどな。乗ってないの借りっぱなし。まあ買う時もオレがこれが良いって言ったやつだから、親父は乗らないだろうなって思ったけど」 「そうなんだ。なんかツヤツヤしてる」 「ツヤツヤ……」  ぷ、と笑って、頭をくしゃくしゃ撫でられる。 「終わるなら片づけて来いよ」 「うん。あ。玲央」 「ん?」 「あのさ……オレの絵、飾ってあるんだけど――――……もし、見たかったら、なんだけど……見てく?」  ちょっと恥ずかしいけど、と思いながら、遠慮がちに聞いてしまったけれど。   「見る」  即答してくれて、何だかとっても嬉しい。 「教室に入っていいのか?」 「うん、今、生徒さん、ほとんど帰ってるし、静かに見てる分には大丈夫だと思うけど――――…… あ、一応、戻って先生に聞いてから電話するね」 「ん」 「友達って。言っとくね?」 「ん? ああ。いいよ」 「……恋人出来たって、さっき、その話はしたんだけど……まだ男の人だって、言ってないから」 「良いよ。ていうか、それ気にしなくていいよ。場所や相手によって、好きに使い分けろよ。そんなの気にしねえから」 「……うん」  ぷに、と頬に触れられて。  頷いて。優しい返事に、微笑んでしまう。 「すぐ電話するね」 「ん」  玲央の所から離れて、教室に戻ると。  先生がオレを振り返った。 「すごい集中してると思ったら、急に居なくなるから、どうしたのかと思ったよ」  クスクス笑われて、すみません、と笑い返して。 「今、友達が 車で迎えに来てくれてて」 「ああ、駐車場に居るの?」 「はい」 「終わるまで中に来てもらえば?」 「あ、良いですか? 絵を見てもらっていいか、先生に聞こうと思って」 「もちろん、良いよ」  クスクス笑って、先生が言う。   「ありがとうございます。呼びますね」  スマホで玲央に電話をかける。 「あ、もしもし……」 『いいって?』 「うん」 『じゃあすぐ行く』 「うん、オレもそっち行く」  電話を切って、先生に視線を向ける。 「迎えに行ってきます」 「うん。いいよ」  クスクス笑われて、不思議に思って振り返ったら。  先生と一緒に、希生さんも、笑ってて。 「――――……??」  一瞬何て言っていいか分からず2人を見ていたら。 「優月がなんかすごく嬉しそうだから、ね」  先生がそんな風に言って、希生さんに視線を向けると。 「ほんと」  え、オレ今そんな、嬉しそうにしてた?  ――――……普通に、電話して、切っただけのはずなのに。  なんかこの2人には、何も隠せないよなうな気が……。  ……蒼くんのお父さんだし。  いつも柔らかいから、普段は感じないけど。観察眼半端ない芸術家だし。で、希生さんは、その先生とずっと仲の良い人だし……。うん。勝てなそう。  変に納得しながら。 「いってきます」  ちょっと自分のこと、引き締めつつ、なるべく普通の顔をして、そう言って、教室から外に出た。   ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 玲央の車は、私の中ではもう1択で決まってるんですが…… 書かない方がいいかなと思って(笑) ご自由に想像してください♡

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