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第356話◇

 教室を出て、敷地を出ようと進んでいると、前から玲央が歩いてきた。  姿を見た瞬間に、笑顔が浮かぶ。 「――――」  そんな自分に、ふと、気づいた。  ……ていうか、さっきそこで会って、今電話したんだから、こっちに来るのも分かってるのに。    なんかオレ、玲央、好きすぎじゃないだろうか。  こんなんだから、今もあの2人に、嬉しそうとか言われちゃうんだ。  うーーーん、と少しだけ悩みながら、目の前に立った玲央を見上げていると。すぐ気づく玲央は、ん?とオレをまっすぐ見つめる。 「どうかした?」 「……ん。なんかあの……」 「うん?」 「今玲央と電話してたら、すごく嬉しそうって、先生達に言われて」  一瞬だけ黙った玲央が、ああ、と笑う。   「オレと電話してる優月が嬉しそうだって?」  クスクス玲央が笑う。 「友達って言ったんだろ?」 「うん」 「まあ別に友達と話して嬉しそうって事でも、いいんじゃねえの?」 「……そうだよね」  うん、そうだね。仲の良い友達って事で、いいよね。 「行こ、玲央」  笑んで、玲央を見上げて。2人でゆっくり教室に向かう。 「蒼さんは居ないんだろ?」 「うん。居ないよ」 「先生って2人も居るんだな」 「え?」  玲央を見上げると、玲央がん?と不思議そう。 「今先生達って言ったろ」 「あ、それね。ごめん、違くて。先生とそのお友達が居るの。蒼くんの個展に写真を買いに行って、そのままここに来て、これから飲みに行くんだって」 「あぁ、そうなんだ」 「学生時代からのお友達みたいだよ。すごいなあと思って」 「何才くらいなの?」 「おじいちゃんたち。なんか2人とも元気だけど」 「それはすごいな。50年とか友達ってことか」 「もっとかも……あ、玲央、ここ、段差あるから気を付けてね」 「ああ」 「あとまだ他の生徒さん居るから」 「ん、分かった」  言いながらドアを開けて、中を覗く。  遠くで、先生がこっちをふと見る。目が合うと、いいよ、という顔で頷く。  玲央に入ってもらって、ドアを閉めた。  玲央は、中に入ってすぐ部屋を見回して、壁に掛かってる絵を見上げた。 「優月の絵は?」  こそ、と囁かれる。 「うん、あのね――――」 「あ、待って。当てたい」 「え。でも結構いっぱいかかってるけど……」  広い教室の、かけられる所に色々かけてくれてるので、かなりの数、あるんだけど。 「何個か候補出すから。当たってたら当たりって言って」 「あんまり近づくと、名前見えちゃうよ」 「じゃあ遠くから当てる。優月の絵はこの中に1つ?」 「今は2つかかってるけど……でも玲央、よく考えたら、オレの絵って、あの玲央の絵しか、見た事ないよね。ここにあるの人物画じゃないし。難しいかも」 「んー絵は、優月ぽいって言われる?」 「先生と蒼くんはそう言うけど」 「じゃあ当てたい」  ひそひそ話しながら、ふふ、と笑いあって。   「少し、歩いてもいい?」 「うん。端っこなら」  玲央が歩き出す。その隣を付いて歩きながら、オレの絵、もう少し先の、あそこだなあ、なんてドキドキしていたその時。  ぱし! という。  何かで何かを叩く音。  教室に響き渡って。  絵を描いてた人達も、オレも。ぱっと、音がした方を振り返った。 「痛って――――」  振り返った先で、玲央が後頭部を押さえてて。  え、何。  思って、その後ろに立ってる人に視線を向けると。  ……希生さんが、スケッチブックを持ってて。 「え?」  ……このシーン、全く意味が分からない。  希生さんが、スケッチブックで、玲央の後頭部を叩いた??? 「――――」  音的には、ばしっ!!……と、いうよりは、もうちょっと軽い音ではあったけど。  全然意味が分からない。  オレが咄嗟にそっちを見た時、何しやがる的な感じで、後頭部を押さえながら振り返った玲央は、希生さんを見た瞬間。「は?」とだけ言って、後頭部を押さえた手も、空中で浮いて。――――固まってしまった。 「……玲央?」  オレがそう言って玲央を見上げていると。 「何してるの、希生……」  久先生が近づいてきて、希生さんの腕を引いて、そう聞いてる。 「急に近づいてくから何かと思ったら、スケッチブックで人叩くって」  久先生の言葉に、その通り、と思いながら、希生さんを見つめていると。 「軽く叩いただけ。痛くないだろ?」  希生さんは、玲央に対して、そう言った。 「それなりに痛いっつの……」  空中で固まってた手で、もう一度後頭部に触れてから。 「何してんの、ここで」  玲央が希生さんに言う。 「こっちのセリフ」  希生さんが、玲央に言う。  オレと、久先生は、顔を見合わせた。 「優月……この人、オレの、じーちゃん」 「――――」  玲央がオレに言う。  完全に、オレは、固まった。  その前で、希生さんが、久先生に。 「オレの孫だよ、久。話してるだろ、かなり自由な孫が居るって」 「――――ああ。言ってたね……」  聞こえてるんだけど、反応出来ない。  久先生が、ポンポン、とオレの肩を叩いた。 「優月が、驚きすぎて、固まっちゃったよ」  苦笑いでそんな風に言われるけど。  何も言えず。  ただ、希生さんと玲央の顔を、見上げるしか、出来なかった。  じーちゃん? 孫???  ……ほんとに?  ……何かそう言われると。こうして並んでるのを見てると。  …………ちょっと、雰囲気、似てる気がしてくる……。  玲央、ものすごく、嫌そうだけど……。

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