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第358話◇
「玲央が迷惑かけてたら、今のうちに言っていいからね」
希生さんが笑いながら言う。
「かけてねーし」
「ないですよ」
玲央とオレの答えが、同時だった。
ふ、と見つめ合って、笑ってしまう。
久先生はがクスクス笑って。
「仲良さそうだから大丈夫だよ」
そう、希生さんに言う。
うんうん、とオレが頷いてると、希生さんも、クスッと笑う。
――――……なんか。玲央のおじいちゃんだと思うと。似てると思うと。
もともとオシャレな人だなと思ってたけど。
何倍もかっこよく見えてしまうのは何故……?
なんて、自分に不思議になっていると。
「じーちゃん、蒼さんの作品、買ったの?」
「ああ」
「何買ったの?」
「青空の写真。部屋に飾る」
「青空の写真? ――――……オレが見てた写真かな?」
玲央がそんな風に言いながら、オレを見つめてくる。
「青空の写真、そんなに何枚もはなかったよな?」
「うん……無かったかも」
そうだ、見てたね、玲央。買わなかったけど。
その写真を希生さんが買ってたら、すごいなあ……。
何買ったんだろ。
ワクワクしながら希生さんを見てると。
希生さんは、オレと玲央を見て、ぷ、と笑う。
「……見たいのか?」
「ん」
短く答えてる玲央の横で、オレも頷いていると。
また希生さんが笑った。
「車にあるから取ってくる」
「じゃあ、その間にオレは、優月の絵を当ててる」
「何だそれ」
クスクス笑いながら、希生さんが教室を出て行った。
「優月の絵を探すの?」
久先生が笑いながら、玲央に言った時。
「あ。すみません。驚きすぎてちゃんと挨拶してなくて」
「ん?」
玲央はまっすぐ、久先生に向き直った。
「神月玲央です。……蒼さんにも、お世話になってます」
玲央がそう言うと、ふ、と久先生が笑った。
「やっぱり似てないかも」
「……え?」
「希生はそんな風には挨拶しなかった気がする。大人になるまで」
クスクス笑って、久先生が、玲央を見つめる。
「玲央くんの方がしっかりしてるね」
オレと玲央が顔を見合って、クス、と笑ってると。
今度は久先生が玲央を見つめて口を開く。
「野矢久だよ。優月の先生だし、自称おじいちゃんでもあるけどね」
「うん。孫みたいに可愛がって貰った気がします」
ふふ、と笑っていると。
「蒼とはどこで会ったの? あいつまだ優月の学校に行ったりしてる?」
苦笑いの久先生。
蒼くんが保護者みたいに、オレの学校の学園祭とかに来てたのを、久先生がからかってた過去が思い出されて、ちょっと笑ってしまいながら。
「学校じゃなくて――――……こないだ、玲央のライブの時に、一緒に2次会に行ってもらって、そこで会って……その翌日、玲央が個展も見に来てたし」
「玲央くんのライブ?」
「はい。玲央、バンドやって、て――――……」
そこまで言って、あ。と気付いた。
あ。
待って。
待って、ちょっと待って。
こないだオレ。
――――……大事な人の、ライブに行くって、言って……。
蒼くん、オレの好きな人のだって……。
全部繋げて考えたら、もう、バレバレ――――……?
思わず言葉を切って、口を押えていると。
「優月?」
玲央が少し首を傾げて、オレを見る。
「どした?」
「あ、の……」
久先生に、絶対隠そうなんて思ってない。
でもいまここには、玲央のおじいちゃんが居て。
……玲央は、家族には、しばらく言わない方がいいって言ってたし。
時間を置いてからって。
だから、希生さんに言うのはあんまり良くなくて――――……。
オレがどうしよう、と思っていると。
久先生はオレをまっすぐ見つめて。
少し間が空いたけど。ふ、と笑った。
「ああ――――……そういえば言ってたね、蒼も個展の後に行くって。そこで会ったんだね?」
言いながら、玲央に視線を移す。
「優月の事が大事でしょうがない、自称兄だから」
「知ってます」
玲央の返事に、久先生が苦笑い。
「知られてるって、あいつはほんとに……」
そう言いながらも、笑顔は優しい。
「玲央くん、探しておいで。優月の絵は――――……雰囲気で優月っぽい、と思うよ。同じ対象を描いても、人によって全然違うからね」
「はい。――――……優月、オレ、ちょっと一回りしてくる」
玲央がオレに言って、離れて行く。
「あの――――……久先生」
気づいた、かな……。
さっき、間があったけど……気づいたからだったのかな……。
なんて言ったらいいんだろう。
希生さん、すぐ戻るだろうし。説明してる暇も……。
「優月」
「は……っはい!」
何だか変に大きい声が出てしまった。
久先生は、クスクス笑って。
「……蒼は、玲央くんを見に行った?」
「――――……」
なんか、ものすごい間接的、だけど。
そういう意味だって、分かって。
「……はい」
頷いて、久先生がなんていうか、ドキドキしてると。
「蒼は、玲央くんを認めたの?」
「――――……」
頷いたら。
久先生は、ふ、と微笑んだ。
「あの優月大事すぎな蒼が、認めてるんなら――――……」
「――――……」
「良いんじゃない?」
先生の視線は、あくまでめちゃくちゃ優しくて。
「まあ蒼は関係なく。優月が自分で選んだんだよね?」
「――――……」
「違うの?」
「……そう、です。オレが、自分で、どうしても……」
「じゃあ良いと思うよ。いつかそういう意味で、紹介して」
ああ、もう。
――――……泣いちゃいそう。
「え。嘘でしょ……優月」
ものすごい苦笑いの久先生が、近くの棚からティッシュを持ってくる。
あ。
泣いちゃいそう、じゃなくて、泣いてた。
「はい」
めちゃくちゃ苦笑いされながら、ティッシュを差し出されて、それを受け取った所に。
希生さんが帰ってきて、ドアが開いた。
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