353 / 822

第358話◇

「玲央が迷惑かけてたら、今のうちに言っていいからね」  希生さんが笑いながら言う。 「かけてねーし」 「ないですよ」  玲央とオレの答えが、同時だった。  ふ、と見つめ合って、笑ってしまう。  久先生はがクスクス笑って。 「仲良さそうだから大丈夫だよ」  そう、希生さんに言う。  うんうん、とオレが頷いてると、希生さんも、クスッと笑う。  ――――……なんか。玲央のおじいちゃんだと思うと。似てると思うと。  もともとオシャレな人だなと思ってたけど。  何倍もかっこよく見えてしまうのは何故……?  なんて、自分に不思議になっていると。 「じーちゃん、蒼さんの作品、買ったの?」 「ああ」 「何買ったの?」 「青空の写真。部屋に飾る」 「青空の写真? ――――……オレが見てた写真かな?」  玲央がそんな風に言いながら、オレを見つめてくる。 「青空の写真、そんなに何枚もはなかったよな?」 「うん……無かったかも」  そうだ、見てたね、玲央。買わなかったけど。  その写真を希生さんが買ってたら、すごいなあ……。  何買ったんだろ。  ワクワクしながら希生さんを見てると。  希生さんは、オレと玲央を見て、ぷ、と笑う。 「……見たいのか?」 「ん」  短く答えてる玲央の横で、オレも頷いていると。  また希生さんが笑った。 「車にあるから取ってくる」 「じゃあ、その間にオレは、優月の絵を当ててる」 「何だそれ」  クスクス笑いながら、希生さんが教室を出て行った。 「優月の絵を探すの?」  久先生が笑いながら、玲央に言った時。 「あ。すみません。驚きすぎてちゃんと挨拶してなくて」 「ん?」  玲央はまっすぐ、久先生に向き直った。 「神月玲央です。……蒼さんにも、お世話になってます」  玲央がそう言うと、ふ、と久先生が笑った。 「やっぱり似てないかも」 「……え?」 「希生はそんな風には挨拶しなかった気がする。大人になるまで」  クスクス笑って、久先生が、玲央を見つめる。 「玲央くんの方がしっかりしてるね」  オレと玲央が顔を見合って、クス、と笑ってると。  今度は久先生が玲央を見つめて口を開く。 「野矢久だよ。優月の先生だし、自称おじいちゃんでもあるけどね」 「うん。孫みたいに可愛がって貰った気がします」  ふふ、と笑っていると。 「蒼とはどこで会ったの? あいつまだ優月の学校に行ったりしてる?」  苦笑いの久先生。  蒼くんが保護者みたいに、オレの学校の学園祭とかに来てたのを、久先生がからかってた過去が思い出されて、ちょっと笑ってしまいながら。 「学校じゃなくて――――……こないだ、玲央のライブの時に、一緒に2次会に行ってもらって、そこで会って……その翌日、玲央が個展も見に来てたし」 「玲央くんのライブ?」 「はい。玲央、バンドやって、て――――……」  そこまで言って、あ。と気付いた。  あ。  待って。  待って、ちょっと待って。  こないだオレ。   ――――……大事な人の、ライブに行くって、言って……。  蒼くん、オレの好きな人のだって……。  全部繋げて考えたら、もう、バレバレ――――……?  思わず言葉を切って、口を押えていると。 「優月?」  玲央が少し首を傾げて、オレを見る。 「どした?」 「あ、の……」  久先生に、絶対隠そうなんて思ってない。  でもいまここには、玲央のおじいちゃんが居て。  ……玲央は、家族には、しばらく言わない方がいいって言ってたし。  時間を置いてからって。  だから、希生さんに言うのはあんまり良くなくて――――……。  オレがどうしよう、と思っていると。  久先生はオレをまっすぐ見つめて。  少し間が空いたけど。ふ、と笑った。 「ああ――――……そういえば言ってたね、蒼も個展の後に行くって。そこで会ったんだね?」  言いながら、玲央に視線を移す。 「優月の事が大事でしょうがない、自称兄だから」 「知ってます」  玲央の返事に、久先生が苦笑い。 「知られてるって、あいつはほんとに……」  そう言いながらも、笑顔は優しい。 「玲央くん、探しておいで。優月の絵は――――……雰囲気で優月っぽい、と思うよ。同じ対象を描いても、人によって全然違うからね」 「はい。――――……優月、オレ、ちょっと一回りしてくる」  玲央がオレに言って、離れて行く。 「あの――――……久先生」  気づいた、かな……。  さっき、間があったけど……気づいたからだったのかな……。  なんて言ったらいいんだろう。  希生さん、すぐ戻るだろうし。説明してる暇も……。 「優月」 「は……っはい!」  何だか変に大きい声が出てしまった。  久先生は、クスクス笑って。 「……蒼は、玲央くんを見に行った?」 「――――……」  なんか、ものすごい間接的、だけど。  そういう意味だって、分かって。 「……はい」  頷いて、久先生がなんていうか、ドキドキしてると。 「蒼は、玲央くんを認めたの?」 「――――……」  頷いたら。  久先生は、ふ、と微笑んだ。 「あの優月大事すぎな蒼が、認めてるんなら――――……」 「――――……」 「良いんじゃない?」  先生の視線は、あくまでめちゃくちゃ優しくて。 「まあ蒼は関係なく。優月が自分で選んだんだよね?」 「――――……」 「違うの?」 「……そう、です。オレが、自分で、どうしても……」 「じゃあ良いと思うよ。いつかそういう意味で、紹介して」  ああ、もう。  ――――……泣いちゃいそう。   「え。嘘でしょ……優月」  ものすごい苦笑いの久先生が、近くの棚からティッシュを持ってくる。  あ。  泣いちゃいそう、じゃなくて、泣いてた。 「はい」  めちゃくちゃ苦笑いされながら、ティッシュを差し出されて、それを受け取った所に。  希生さんが帰ってきて、ドアが開いた。  

ともだちにシェアしよう!