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第359話◇
「持って来たぞ、玲央」
「見たいけど、ちょっと待って、優月の絵を当ててからでもいい?」
希生さんの言葉に、玲央が、そんな風に答えてる。
「もうオレは見せてもらったからな。教えてやろうか?」
「……やめろよな」
「お前、ほんと口の利き方なってないよな」
「じーちゃんに言われたくないけど。オレの口調って、じーちゃんに似てねえ?」
「似てない」
掛け合いの会話に、苦笑いしてたら、涙も落ち着いて。
「希生が子供っぽくなってるし」
久先生が、オレだけに聞こえるような感じで言って、クスクス笑っている。
「希生と玲央くんって、そんなに似るほど近くに居たの?」
「ああ。元々は神月の屋敷に住んでたけど、|希実《のぞみ》が結婚した後、オレがその隣に家を建てて――――……小さい頃は玲央は、めちゃくちゃじいちゃん子だったもんな?」
玲央は気恥ずかしいのか、頷きはしないで苦笑いを浮かべてる。
じいちゃんの相手をするから、将棋とか習ったって言ってたっけ。
――――……仲よさそうだもんなあ。
「それがこんな、長い間顔も見せない奴になって。軽く叩ききたくもなるだろ
涙も引いたし、もう大丈夫、と思いながら、絵を見てくれている玲央に近付く。
「玲央のお父さんて、のぞみさん、なんだね?」
そう聞いたら、玲央が、ふ、と笑いながらオレを見下ろした。
「じいちゃんが「希望」と「生きる」でさ。父さんが、その「希」と「真実」で|希実《のぞみ》」
「へえ……」
頷きながら聞いていると。ふと。
「玲央の名前は、漢字引き継がなかったんだ?」
「ああ、それは……」
「画数とか?」
「じゃなくて――――……あぁ、じいちゃんの名前、知らないのか」
「……うん? 希生さん? あ、そっか。読み方違うって……」
「そう。きおさん、じゃなくて、正しくは、まれお」
「まれお?」
ああ。希望の「希」は、まれって読むもんね。
あ、まれおさん、て言うんだ。
ふむふむ、と納得してると。
「なんか占いかなんかで、希生がいいって言われたけど、読みは、まれおが良いって言われたらしい」
なるほど。
まれおさん――――…… あ。そっか。それで。
「まれおさんからの、れお、なの?」
「そう。 神月の家は、じーちゃんが一番権力あるからな」
クスクス笑う玲央。
「じゃあ、希生さんからお名前もらったんだねーすごい。いいね」
「いいかぁ?」
苦笑いの玲央は、後ろから来た希生さんに肘で小突かれてる。
「良いだろ? ――――……オレは、ほんとの、まれおが好きじゃないけど。玲央はカッコいいだろ?」
希生さんがそう言って笑うので。
「はい」
と頷いて、にっこり笑ってしまうと。
「――――……」
「――――……」
玲央と希生さんに、同じような顔でじっと見つめられてしまう。
「?」
何だろ、と思った瞬間。
希生さんがクス、と笑って。
「……玲央に聞いたんだけど、優月くんが、嬉しそうに、はいって言うから。なんか――――…… はは。可愛いね、ほんと」
クスクス笑う希生さんに、玲央もちょっと笑って。
「玲央ってカッコいいと思ってたのか?」
「……うん」
「オレは、優月の名前のが好きだけど」
くすくす笑う玲央は、希生さんの前だから、すぐにオレから視線をずらして。
「なあ、優月、オレ、3つにしぼってみたんだけど。その中にあったら、褒めて」
「あ、3つにしぼれたの? すごい」
「もう褒めてる」
クスクス笑いながら玲央がオレを見下ろす。
「こっち来て」
背中に手を置かれて、連れていかれる。
「あの、うさぎの絵と。果物の絵とあっちの犬……?」
「1つは入ってる」
のこりの2つの絵も、何となく選んだ理由は分かる気がする。
やわらかい感じのタッチの水彩画。
玲央は、オレの事、こういうイメージで見てるんだなと思うと。
なんとなく、嬉しい気がしてしまう。
1つかあ、と玲央が呟いて、3枚を見返した玲央が、ふ、と笑顔でオレを見つめる。
「じゃあ、うさぎ?」
「わあ、当たり。すごい、玲央」
「ふわふわだからな。これは、優月っぽい」
「おー、すごいね、玲央くん」
久先生も寄ってきて玲央をほめるので、玲央が、ふ、と微笑んだ。
「もう1つも優月ぽいですか?」
「うん。ぽいね。たまに、違うタッチの絵も描くんだけど……飾るのは、優月っぽいのを飾ってるかも」
「――――……んー……も一度端から見ようかな」
そう言いながら玲央は、ふ、と久先生を振り返った。
「まだ見てて、平気ですか?」
「もちろん。優月の、見つけてからでいいよ」
「ありがとうございます」
端まで歩いていく玲央にくっついていって、玲央の後ろを歩く。
もう少し先に、あるけど。
ふふ、と笑みながら後ろについて。
そうすると、玲央が面白そうに、オレを振り返ってくる。
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ブログに、お正月の番外編小説を置いてます♡♡
by悠里♡
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