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第363話◇周知

「よく分かったね、玲央くん。見る目あるよ」 「あんまり褒めないで、久。――――……調子に乗るから」  先生の言葉に、希生さんが笑いながら答える。 「優月っぽい絵を探しただけなので。見る目がある訳じゃ……」  玲央もそんな事を言って、苦笑いしてる。 「優月っぽい絵ってちなみにどんなの?」  久先生が玲央に聞くと。 「どんなの――――……雰囲気で選んだので……」  うーん、と考えてるので。 「玲央、佐田さんと西本さんの絵も候補に挙げてて……犬のとか……」  オレが先生にそう言うと、それを聞いた先生は、なるほどねーと笑う。 「優月のイメージが、柔らかくて優しい、て思ってるって事だね」 「そう、ですね。自然とそういうの探したかも……」 「まあそれで当てたんだから大したもんだけど」  にっこり笑ってから、先生は、ふと、気づいたように玲央を見た。 「ここに無いんだけど、優月が描く人物画は、全然違うんだよ」 「そうなんですか?」 「人物画を描くと、優月じゃなくて、その描かれてる人の内面の雰囲気になるから。優月っぽいのを探しても見つからないよ。ちょっと面白いよ、優月に絵を描かれるのは」  先生の言葉に、クスクス笑う玲央。 「じゃあ、今度オレを描いて」  玲央に言われて、何秒か固まる。 「何、その顔? 嫌なのか?」  ぷ、と笑って、玲央がオレを見る。 「そうじゃない、けど…… すっごく見て描くから……」  照れるなあ――――……なんか。ドキドキしちゃうよね、きっと……。  うーん、すごく恥ずかしいかも……。  と。  希生さんが居るんだった。  い、言えない……。 「こ、んど――――……描く、ね?」  辛うじて、そう言うと。  玲央は、ふ、と微笑んで。「ん」と頷く。 「あ、じーちゃん、蒼さんの写真見せて」 「ああ」  丁寧な包装を解いて、額に入った写真を取り出して見せてくれると。 「わー……」  やっぱり、というとこなのか。  何なのか分かんないけど。  ……玲央が見てた、空の写真。だよね。  すごいな。同じもの好きなの。  こういう、好き、とかも遺伝てするのかなあ。  思いながら、隣の玲央を見上げると。  なんかすごく嫌そう。  あれ?? なんで? 「――――……オレ、感性がじーちゃんと同じとか、すげえ嫌なんだけど」  なんて事言うんだろ、玲央……。  と思うような事を、ものすごーく嫌そうな顔で、玲央が希生さんに言ってる。案の定、希生さんがムッとして。 「何だ、お前、これが欲しかったのか?」 「――――……欲しかったけど、やめたんだよ」 「やめた? 何で?」 「――――……それは。まあ色々」 「何だ色々って」  玲央は少し黙ってたけど、言わないと話が進まなそうと思ったのか、また、ものすごく嫌そうに、口を開いた。 「だから……もうちょっと、平常心で見れるようになったら、蒼さんの買うって」 「平常心? ……何言ってんだか分からんが。……蒼に対抗心でも燃やしてるのか?」 「……別にそう言うんじゃねえし」 「はあ? じゃあなんだ、平常心って」 「じーちゃんには関係ない話」 「――――……それがわざわざ車から持ってきて、見せてやってるおじい様に言う言葉か」 「つか、久しぶりに会ったけど、ほんと変わってねえし。もうじいさんなんだから、もーちょっと丸くなったら?」  なんかそんなやりとりをぼー、と見つめながら。  あ、希生さんて、蒼くんのこと、蒼って呼ぶんだなあ、とか。  よくこの2人って、この速さでポンポンと噛まずに話せるなあ、とか。  希生さんて、玲央に会うまでは、久先生と同じような穏やかなオシャレな人だったけど……なんか、口うるさいおじいちゃんに……。孫の玲央が可愛いのか心配なのか……。  なんか、可笑しくなりながら、ぼんやりと考える。    多分。仲、いいんだと思うんだけど、この2人。  何かすごく、似てるし。  言葉の選び方とか。ちょっとからかうみたいに喋るとことか。  特にお互い相手だと、それに、ちょっと喧嘩かなと思うようなツッコミモードになるのかな。  まあオレには中に入る事は出来ないし、久先生はニコニコしながら見てるだけだし。オレもそうしとこ。  なんて思ってたら。  希生さんが急にこっちを見た。 「ほんと、迷惑かけてないか、優月くん」 「い、えいえ、全然」 「ほんと、相変わらず、口も悪いし……」  はーとため息をついているけれど。  そっくりなんだけど……。  とは言えず、苦笑い。すると、久先生も苦笑いで。 「そっくりだけどね」  そう言った。 「似てな――――……」  きっと希生さんは、先生に何かを言おうとしたんだと思うんだけど。  堪えきれなくなって、オレがぷ、と笑ってしまった。 「――――……」  久先生に向かおうとしていた希生さんが、ん?とオレを見て。 「優月くん、笑った?」 「あ、いえ……あの――――…… はい」  もう笑うしかない。  だって、そっくりなんだもん。  口元を押さえながら、困ってると、なんか玲央は面白そうにこっち見てるし。ちょっと助けて、と見つめてしまうと、玲央、おかしそうに笑ってるし……。

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