359 / 822

第364話◇

「玲央はこの写真が欲しかったのか?」  空の写真を見つめながら、希生さんがそう言うと。 「別に。それじゃなくても……いつか、良いの買うから良い」 「何か知らないが、蒼に対抗するってきつくないか?」 「……うるせーな」  ……あ。玲央。なんか拗ねた。  ――――……ちょっと可愛い。 「……優月、もうそろそろ行く?」  オレを振り返って、そんな風に言ってくる。  密かに玲央の事が愛しくなりまくって、ドキドキしていると。  その横で、希生さんはふ、と息を付いて。 「じゃあお前が、これが欲しいってなったら――――……譲ってもいいぞ」 「――――……」  希生さんの言葉に、玲央はちょっと驚いたみたいに希生さんを振り返って。   「……いーよ、気に入ったから買ったんだろ。オレ、それが絶対欲しいって訳じゃなかったし。飾れるようになった時に一番好きな奴、買うし……」  と玲央。 「それならいいが。まあ、声だけは掛けろってことだな」 「――――……分かったけど。覚えてたら」  そんなやりとりを黙って聞いていたら、久先生と目が合って。  ふ、と微笑み合ってしまう。  なんか……素直じゃないなー。この2人。  ――――……お互いに、だと、そうなっちゃうのかなあ。  ありがとって、玲央、言えばいいのに。  そんな風に思いながら、玲央を見て、くす、と笑ってしまうと。  玲央はオレを見て。  ちょっと、膨れた。  あ、やっぱり可愛い。  ――――……希生さんには、こんな感じになっちゃうのかー。 「……つか、そーいや、じーちゃん、なんで蒼さんの事、呼び捨て? 仲いい?」  玲央がそう聞くと、久先生が頷いた。 「蒼が産まれた頃から何度も会ってるし。一緒に旅行した事も何回かあるよね」  久先生の言葉に、希生さんが笑って頷く。 「子供の蒼くんとですか?」  オレが聞くと、ん、と久先生。 「高校生とかかな。うちの奥さんが亡くなって、しばらくしてから」  ――――……あ、そうだ。  先生の奥さん、蒼くんのお母さんは、蒼くんが中学の頃に病気で亡くなったって。だから、オレは、会えてない。  オレが会った時の蒼くんはもう元気だったし。   ――――……その事を知ったのも、ずいぶん後だったけど。 「まあしばらく会ってなかったから、個展で久しぶりに会ったけど」  そう言った後、希生さんは、ふと玲央を見上げた。 「玲央はどこで蒼と知り会ったんだ?」 「あぁ。こないだ、優月がオレのライブの二次会――――……」 「あ」  咄嗟に声が出てしまった。  皆がすぐに、ん?とオレを振り返る。  だって、その話してると、希生さんにも、きっと分かっちゃう……。  さっきそれで久先生にバレたし。 「どした? 優月」  希生さんの近くに居た玲央が、ふ、と笑みながらこっちに来る。 「あ、の……」 「ん?」  優しい瞳を見つめ返しながら、何て言えば、と困っていると。 「もうこんな時間だね」  と、久先生が言った。  多分。  ……いや、絶対。助けてくれたに違いない。 「そろそろ飲みに行こうよ、希生」 「ああ。……そうだな。そうするか」  希生さんもそう言いながら、オレと玲央を見て。 「これから、どこか行くのか?」 「ああ。オレらは――――……とりあえず、ドライブ」 「ドライブ?」 「そう。な?」  優しく微笑んでくれる玲央に、オレはうんうん、と頷いた。  もう。  希生さんには、どうしても意地張るみたいなのに。  オレに向ける玲央の顔は。  ……希生さんの前に居ても、めちゃくちゃ優しい。  それは、嬉しいんだけど。  ……バレちゃう気がして。  ――――……玲央、今日言ってたもんね、玲央の家族にバレるのは、もうしばらく後が良いって。  そうだよ、もう、今日聞いたばっかりなのに。 「あ、オレ、カーテン閉めますね」  見つめあってると変かなと思って、オレは、部屋のカーテンを閉めに歩き出した。  近くに居ると、玲央と、オレの顔でバレそう。 

ともだちにシェアしよう!