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第364話◇
「玲央はこの写真が欲しかったのか?」
空の写真を見つめながら、希生さんがそう言うと。
「別に。それじゃなくても……いつか、良いの買うから良い」
「何か知らないが、蒼に対抗するってきつくないか?」
「……うるせーな」
……あ。玲央。なんか拗ねた。
――――……ちょっと可愛い。
「……優月、もうそろそろ行く?」
オレを振り返って、そんな風に言ってくる。
密かに玲央の事が愛しくなりまくって、ドキドキしていると。
その横で、希生さんはふ、と息を付いて。
「じゃあお前が、これが欲しいってなったら――――……譲ってもいいぞ」
「――――……」
希生さんの言葉に、玲央はちょっと驚いたみたいに希生さんを振り返って。
「……いーよ、気に入ったから買ったんだろ。オレ、それが絶対欲しいって訳じゃなかったし。飾れるようになった時に一番好きな奴、買うし……」
と玲央。
「それならいいが。まあ、声だけは掛けろってことだな」
「――――……分かったけど。覚えてたら」
そんなやりとりを黙って聞いていたら、久先生と目が合って。
ふ、と微笑み合ってしまう。
なんか……素直じゃないなー。この2人。
――――……お互いに、だと、そうなっちゃうのかなあ。
ありがとって、玲央、言えばいいのに。
そんな風に思いながら、玲央を見て、くす、と笑ってしまうと。
玲央はオレを見て。
ちょっと、膨れた。
あ、やっぱり可愛い。
――――……希生さんには、こんな感じになっちゃうのかー。
「……つか、そーいや、じーちゃん、なんで蒼さんの事、呼び捨て? 仲いい?」
玲央がそう聞くと、久先生が頷いた。
「蒼が産まれた頃から何度も会ってるし。一緒に旅行した事も何回かあるよね」
久先生の言葉に、希生さんが笑って頷く。
「子供の蒼くんとですか?」
オレが聞くと、ん、と久先生。
「高校生とかかな。うちの奥さんが亡くなって、しばらくしてから」
――――……あ、そうだ。
先生の奥さん、蒼くんのお母さんは、蒼くんが中学の頃に病気で亡くなったって。だから、オレは、会えてない。
オレが会った時の蒼くんはもう元気だったし。
――――……その事を知ったのも、ずいぶん後だったけど。
「まあしばらく会ってなかったから、個展で久しぶりに会ったけど」
そう言った後、希生さんは、ふと玲央を見上げた。
「玲央はどこで蒼と知り会ったんだ?」
「あぁ。こないだ、優月がオレのライブの二次会――――……」
「あ」
咄嗟に声が出てしまった。
皆がすぐに、ん?とオレを振り返る。
だって、その話してると、希生さんにも、きっと分かっちゃう……。
さっきそれで久先生にバレたし。
「どした? 優月」
希生さんの近くに居た玲央が、ふ、と笑みながらこっちに来る。
「あ、の……」
「ん?」
優しい瞳を見つめ返しながら、何て言えば、と困っていると。
「もうこんな時間だね」
と、久先生が言った。
多分。
……いや、絶対。助けてくれたに違いない。
「そろそろ飲みに行こうよ、希生」
「ああ。……そうだな。そうするか」
希生さんもそう言いながら、オレと玲央を見て。
「これから、どこか行くのか?」
「ああ。オレらは――――……とりあえず、ドライブ」
「ドライブ?」
「そう。な?」
優しく微笑んでくれる玲央に、オレはうんうん、と頷いた。
もう。
希生さんには、どうしても意地張るみたいなのに。
オレに向ける玲央の顔は。
……希生さんの前に居ても、めちゃくちゃ優しい。
それは、嬉しいんだけど。
……バレちゃう気がして。
――――……玲央、今日言ってたもんね、玲央の家族にバレるのは、もうしばらく後が良いって。
そうだよ、もう、今日聞いたばっかりなのに。
「あ、オレ、カーテン閉めますね」
見つめあってると変かなと思って、オレは、部屋のカーテンを閉めに歩き出した。
近くに居ると、玲央と、オレの顔でバレそう。
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