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第365話◇
カーテンを閉めてる間にちょっと落ち着いて。
皆の会話は、久先生が今日どこに行こうかって話にしてくれてたから、さっきの続きにはなっていなくて、少しほっとしつつ。
「店の予約とかしてないのか?」
「まだ店も決めてないな」
「でも車で来てんだろ?」
「帰りは代行頼もうかと思って。まあもしかしたら、蒼が来るかもって言ってたよな」
玲央の質問に、希生さんが答えながら、久先生を見やる。
「そうだね」
ふ、と笑いながら、先生が片付けを終えた。
「出ようか」
その言葉に、皆で歩き出す。
出入口の所で、玲央がふと振り返ってきて。
「あ、優月、それどっちか持つ?」
「え、大丈夫だよ」
「いいから、貸し――――……っと」
言いながら前を全然見てなかった玲央が、出てすぐの段差で、かく、と足を取られた。
「っと……」
「わ」
「……ひっかかった」
すぐ自分で元どおりになってたし、あんまり役に立ってないけど一応玲央を支えた手を離しながら、クスクス笑ってしまう。
「オレ、大丈夫って言ったのに。前見ないからだよ」
ふふ、と笑いながらそう言ってから。
なんかちょっと可笑しくなって、しつこく笑っていると。
「何笑ってンの」
「――――……玲央も転んだりするんだなーって思ったら」
「はー?」
ちょっと嫌そうな顔で見られる。
「だって、なんか、転ぶとか、なさそう」
「つーか、転んでねーし」
あ、認めないし……。
――――……なんかますます、笑ってしまうんだけど。
「持つから貸して」
玲央が絵の道具、奪っていくみたいに持ってくれる。
なんか。
ほんとたまに、可愛い。
――――……とか。
なんかこんなにカッコいい人に、可愛いとか、何でこんなに想っちゃうんだろうって思うんだけど。
可愛い。
――――……愛しい? かなぁ。
先生が教室に鍵を掛けて、門の所にも鍵を掛ける。
玲央の車の隣に止まってたのが、希生さんの車だった。
玲央が鍵を操作して、車の鍵が開く音。トランクに絵の道具を入れて、閉めた所で、希生さんが「玲央」と呼んだ。
「ん?」
玲央が希生さんに視線を向けると。
希生さんがふと、黙る。
――――……?
なんとなく、オレも、玲央の隣で、立ち止まって。
久先生も、希生さんの横で、止まった。
4人で、車の側で向かい合う感じ。
「――――……今度、帰ってこれるか?」
「え? いつ?」
「近い内。連絡しろ。日を決めるから」
「実家に?」
「オレんとこに」
「……じいちゃんとこに?」
あんまり無い事なのか、玲央が不思議そうにしてる。
「いいけど――――…… 何?」
さっきまでポンポン軽く言いあっていたのに。
何だか静かなやりとりなので、オレはただ黙って聞いていた。
「蒼の写真、どこに飾るか見たいだろ?」
「――――……んー。まあ」
玲央は、ふ、と息をついて。
「いーけど、オレ結構忙しいけど」
「オレも忙しいから、合わせるんだろ」
「ん。まあ。 分かった」
玲央が、何だかため息交じりに笑って、頷いた。
何だか不思議な空気と会話だけど。
この2人はきっと、これで仲良しなんだろうなぁと思いながら。
何となく、黙ってたら。
「優月くんも連れて来ていいよ」
希生さんの一言に。
希生さん以外の3人で、え、と希生さんに目を向ける。
オレ達の顔を見て、一瞬止まった希生さんが、ははっと笑い出した。
「そんなに驚かなくても良いだろ。 久も来ていいよ」
「……希生?」
久先生はじっと希生さんを見て、名を呼んだ。
玲央は、ちら、とオレを見下ろして。それから希生さんを見つめる。
「変な縁だよな。オレの孫と、久の孫みたいな子が、知り合いでさ」
「――――……」
静かな場所だから。
希生さんの声だけが、通る。
――――……なんとなく、誰も、返事をしない。
「……大事なら、連れて来なさい」
急に変わった声と、口調。
その言葉を理解するまで少しかかった。
何となく誰のことも見つめられなくて、宙に泳がせていた視線。意味が分かってすぐに希生さんを見たのと同じタイミングで、玲央がオレを見た。
それが分かったから、オレはすぐ玲央に視線を移した。
……どうしよう。
バレてる……よね……?
言葉には出せずに、玲央を見つめたら。
見つめ合ってすぐ、玲央が、ふ、と微笑んだ。
息を、飲む位。
何だか、すごく、綺麗に。
「――――……」
それから、希生さんの方をまっすぐ見つめて。
「分かった。連れてく」
玲央が言う。
静まり返った中で。
何だか。
何の音も、聞こえなくて。
オレは玲央を、ただ、見上げた。
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