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第367話◇
「じゃあ、連絡する。 もう行くから」
「ああ。車、気をつけろよ」
希生さんが玲央にそう言ってる。
その隣で久先生がオレを見て。
「優月も気を付けてね。また来週」
「はい」
先生と見つめ合うと、ふふ、と笑まれた。
先生と希生さんに挨拶をして。
オレと玲央は、玲央の車に乗り込んだ。
シートベルトをする横で、玲央がエンジンをかける。
玲央が窓を開けると、2人が玲央側の窓から少しのぞき込んでくる。
「スピード出しすぎるなよ」
「当たり前。優月乗せてんだから」
「乗せてなくても出すなよ」
「分かってるって」
希生さんに向けて苦笑いで言って、最後に、さよなら、と久先生に軽く頭を下げてから、オレに視線を向けた。
「出すよ?」
「ん」
玲央は前を見てるので、オレが最後に2人と別れた。
駐車場を出て走り出すと、玲央が窓を閉める。
「――――……」
少し無言の玲央。
何だろ。黙っちゃった。
――――……って。
やっぱり、めちゃくちゃ、カッコいいなあ。運転してる姿。
長い指が、ハンドルを持つの、綺麗。
絵に描きたい……。
でも初めて乗せてもらってるのに、いきなり絵を描き始めたら困るよね、と思うので、さすがに言わないけど。
なんて色々思いながら玲央を見ていたら。
「すっげー。何、今の空間……」
玲央がクックッと笑い出して。口元を、右手で隠してる。
ちょうど信号が赤で。
ハンドルに少しもたれて。ちら、とオレに視線を向けてくる。
「優月の教室来たらじいちゃんが突然現れて――――…… 優月のこと知ってるし。……蒼さんのことも知ってるとか……すげー混乱……」
「混乱……してた? 玲央」
「してたよ。 つか、するだろ」
可笑しそうに笑う。
「あんまり、混乱してそうには見えなかったよ?」
オレがそう言うと。玲央はふ、と笑うと。
「オレ、そういうのあんまり出ねえみたいだけど。今日はほんと驚いた」
信号が青になって、玲央が体を起こして、発進させる。
「でもまー……オレが後回しにしたかった家族に、じいちゃんは入ってなかったから」
「――――…………あ、そう、なの?」
「そう。じいちゃんは多分……大丈夫かなって、思ってた」
「――――……」
玲央って。
希生さんのこと。 大好きなんだなー……って思って。
何だか、可愛くて。
微笑んでしまう。
「希生さんは、何で玲央の事、色々知ってるの?」
「すげー聞かれるから。――――……なんか昔から、わりとなんでも知ってるかも」
「そうなんだ。話すんだね」
「……分かるだろ? あの感じで聞かれるんだよ」
玲央が苦笑いでそんな風に言うのを聞いていると、クスクス笑ってしまう。
「男も、とかさ、色んな人と、とか話してるって……なんか、すごい」
「家族でじいちゃんだけ。――――……つか、親よりじいちゃんのがよっぽど関わって生きてきた気がするし」
「そうなんだね」
そっか。
「それで、仲良ししなんだね」
「――――……仲良しに見えたか?」
「うん。見えた」
答えながら。
ずっと、玲央を見つめてしまう。
――――……そういえば。
よく考えると、オレを見つめていない横顔の玲央って。貴重。
いっつも、まっすぐオレを見るから。
――――……横顔。絵になるなあ……。
ほんとカッコいい。
「いつもあんな感じ。喧嘩してんのかなーみたいな」
「……希生さんと話してる玲央は、なんか可愛いよね」
「――――……可愛くなくて良いっつの」
少し黙った後。
嫌そうにそんな風に言うけど。
なんか、楽しそうで。
「――――……」
クスクス笑い出した玲央に、ん?と首を傾げると。
「きおさん、とか。優月が呼んでるのが不思議すぎて」
うん。確かに。
……希生さんが、玲央のおじいちゃん、なんて。
ほんと。
不思議すぎ。
人の縁って――――……。
ぐるぐる回って。色んな所で繋がるんだなあ……。
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