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第369話◇

 キスを離した玲央が、その手でオレの頬に触れて、すり、と撫でた。 「毎日、色んな事しようぜ、夏休み」 「――――……」  見つめられてくしゃくしゃ髪の毛撫でられる。 「その合宿で作るはずだった思い出とかは、オレとか皆と、作ろーな」  なんで玲央は。  いっつもオレを、ワクワクさせるのかなあ。  ――――……どうして、こんな、気持ちを持ち上げてくれるんだろ。    すぐに変わった信号に、玲央が、車を発進させて。  オレはといえば。何だか玲央がカッコ良すぎて、ドキドキしすぎて。  引き寄せられて崩れてた姿勢を、まっすぐ戻すのに、精一杯。  そんな事も知らず、玲央は楽しそうに、ぷ、と笑う。 「夏休みまで、まだ結構あるけどな」  クスクス笑いながら。 「それまでに6月に学内でライブもあるし。それの練習で、その前にライブハウスでもまたやるし。7月テストが終わんねえと、夏休みんなんねーしな」  なんか色々あるんだなあと、聞きながらうんん頷いていると。  ふと気づいた。 「あ。夏休みは、ゼミの合宿はあるよ」 「はー? あんの?」  玲央がちょっと嫌そうに言う。 「確か2泊って言ってたような気がする……」 「んー、それもやめたら?」 「……それは無理」  笑いを含んだ声に、オレも笑いながら答える。 「……知ってる」  ぷ、と笑いながら、玲央がオレをちらっと見る。 「つか、オレもそれはあるな……」  はー、とため息。 「めんどくせーな。つか。合わせると4泊位、優月と会えないじゃん」  むー、と若干膨れながら、ハンドルを、長い指でトントンしてる。  ――――……なんか玲央って。  ……オレにそんなに会ってたいんだなー。と。  一連の会話。  なんか全部、ものすごい嬉しいんですけど。 「お腹すいてる? 優月」 「うん。そうかも」 「まだ食べるとこ、30分くらいかかるからさ」 「うん。大丈夫だよ」 「後ろの袋、取って」 「?」  後ろの座席を振り返ると、真ん中に紙袋が置いてある。 「取れる?」 「ん。取れ、そう――――……」  手を伸ばして、紙袋の取っ手を引っ掻けた。 「見ていい?」 「いいよ」  中を開くと。何だか、透明のセロファンとキラキラしたリボンに包まれた、なんだかものすごく可愛い包装。 「開けていいの??」 「いいよ」  くす、と笑う玲央が、なんか優しくて。  好きだなあ、なんて思いながら、包装を開けていくと。中に箱が入っていて。  とめてあるシールを外しながら。  あ。この箱に書いてある名前って……。  思いながら箱を開けると。  美咲に貰った……昼休み、びっくりな食べ方をしてしまった、あのチョコレートだった。 「……買ってきてくれたの?」 「ん、ちょっと時間あったし、駅のビルに入ってるって言ったろ? 寄って来た」 「……ありがと」  ああ。もうなんか。本当に好きなんだけど。  と思いながら、お礼を言うと。 「味分かんないって泣いてたからなー。全種類2個ずつ買ってきたから好きなだけ味わえよ」  クスクス笑われる。 「食べていいの?」 「もちろん」 「玲央は、何食べたい?」 「優月と同じの」  ……じゃあさっき、味分かんなかったやつにしよ……。  キャラメル。 「はい」  玲央の口に、入れてあげて。自分も、食べる。 「――――……あ、美味しー」  うん。確かに、さっきも、この味だったような気は、するんだけど。  玲央のキスに、全神経もってかれてたから……。 「これ、キャラメル? さっき食べたやつ?」 「うん。そう。あたり」 「――――……なんか、味とキスが頭ん中に両方残ってねえ?」 「……ん?」 「これ食べるとキスしてたこと、思い出すな」 「――――…………」  言わないでください。  必死で、思い出さないように、してるのに……。  そんな気持ちで、何も言わず玲央を見つめると。  玲央はそんなオレをちらっと見て、分かってるのかなんだか、クスクス笑ってる。      

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