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第370話◇

 どうしてチョコ食べるのにこんなに恥ずかしくならなきゃいけないんだろうと、悩みながら。  でも今度は一応、味も分かったし。よかった、美咲にも言える。 「ミルクも食べるね。玲央も食べる?」 「――――……優月、それって、食べたいっていうより、味が知りたいんだろ」  クスクス笑われて、ちらりと視線を流される。 「味分かんないって、言ってたもんな……」 「………………」  うう。その通りだけど。  そんな面白そうに見つめなくても、いいと思うんだけど……。 「オレも食べる。ちょーだい」 「あ、うん」  ミルクを見つけて、玲央の口に入れて、それから自分の口にも入れる。 「優月はどっちが好き?」 「んー。食べ慣れてるのはミルクかなあ。キャラメルってあんま食べないかも。でもどっちも美味しい。濃厚だよね、ここのチョコレート」 「そっか。……やっと味分かった?」  クスクス笑われて、そうするとまたキスしてたのが浮かんでくるし。  自分の頭の中から、あのキスを追い出す作業に苦しんでいると。  そんな事を知らない玲央は、「またキスしようなー?」とか、楽しそうに言ってくる。 「それは、嫌かも……」  言うと、玲央は、ぷ、と笑って。 「一緒に食べる感じ、いーじゃん? 同じ味感じるとか」 「……だって、あれって…… 食べるっていう方が、全然出来ないし」 「キスでいっぱい?」 「……何でいっぱいになんないのか分かんないよー……」  恥ずかしい会話に、顔が熱くなって、もうどうしようもない。  今だけは玲央と目が合わないように、前を見つめる振りをしてみる。 「キスしたって、別に味覚は無くならねーし」 「……完全に無くなったけど」  クックッと笑って、玲央が「分かったよ」と言う。 「なるべくしないようにする」 「……うん」  なるべく、が気になるけど……でも、楽しそうな玲央に頷いて。  何となく、食べたチョコのキラキラした包みを伸ばして、三角に折ったりしていたら。 「そういうので鶴とか作る奴いるよな……」  と、玲央が面白そうに見つめてくる。  えーと……作る奴かも、オレ。  どういう意味で言ってるんだろ。   「……うん」 「――――……もしかして、作る奴?」  オレの微妙な返事に、玲央は、笑み交じりにそう聞いてくる。 「作るかも……」 「はは。 器用なんだなー。オレそういうの無理かも」  あ、器用、って言ってくれるんだ。  ――――……何かオレって。  玲央の言う言葉に、めっちゃくちゃ、心の中、反応するなー。  すごい感情が、忙しい。  玲央と居ると、いつも、触れたり。抱き締めたり。キスしたり。  触れ合ってる事が多い気がして。  触れ合って見つめ合いながら話すのと。  微妙に離れてて、ちら、と見られる位の。  この距離感が、普段、あんまり無いんだなーと思って。   隣の玲央をマジマジと見つめてしまう。 「何? 優月」  玲央が視線を感じるのか、クスクス笑ってる。 「ううん。……なんか」 「ん」 「……いつも、オレ、玲央とぴったりくっついてる気がしてきた」 「――――……うん? どういうこと?」 「車って。近いんだけど、ちょっと、遠いね? 目も見れないし」  横顔見れるっていうメリットはあるけど。  なんて思いながら言うと、玲央は、少しの間、返事をしない。 「――――……」  あれ? なんで何も言わないんだろ。  あ、オレ今変なこと言った? こんなに近くに座ってるのに、遠いねとか。  遠くないってことかな??  うん、ていうか、遠くないよね、すぐ近くに座ってるし。  よく考えたらすごく変なことを言った気がして、困ってると。  信号で止まった玲央は、ハンドブレーキをかけて。 「5秒おいで」  言われて、次の瞬間、むぎゅ、と抱き締められた。  一瞬で、ふわ、と気持ちが、緩む。

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