383 / 860

第388話◇

 車に戻って、走り出す。 「海、久しぶりで――――……なんかすごい良かった」  優月が、窓から海を見ながらしみじみ言ってる。  ふ、と笑みが浮かんで。 「なら良かった」 「ありがと、玲央」 「ん」  ……何か。ほんと。  ――――……ありがとうとか。人気遣う言葉とかって。  ……言うべきだなーと。優月といると、思う。  まあ。こんな素直にまっすぐ言えるかどうかは、疑問が残るけど。  ポケットに入れて置いたスマホが鳴り始めて。  続いてるから、電話か、と。 「優月、ポケットから取って、誰からか見て?」 「うん――――…… あ、勇紀だよ」 「出て?」  言いながら、音楽のボリュームを下げる。 「うん……あ、もしもし? 勇紀?」  優月がすぐに、スピーカーのボタンを押した。 『あ、優月ー?』 「うん」 『玲央にかけて優月が出るとか! なんかまだ、不思議』  ふふ、と優月が笑ってる。 「何だよ、勇紀?」 『あ、玲央。これ、スピーカーになってる?』 「うん、なってるよ」  優月が笑いながら答えてる。 『あのさあ、明日なんだけど、稔も来れるって。で、なんか稔が誰か誘いたい奴がいるらしくて、それは学校で誘うって言ってたけど』 「村澤?」 『ああ、なんかそんな名前だったかも。玲央達と同じ学部だって』 「分かった。んで?」 『店なんだけど、どんなとこがいい?』 「個室。騒いでも平気なとこ」  オレが即座にそう答えたら、勇紀は、クスクス笑った。 『何それ、食べ物とかで決めるんじゃねーの?』 「今回に限っては、そっちが一番で」 『何で?』 「絶対騒ぐだろ」 『ああ――――……そう、だね、分かった』 「つか、そこ、騒がないって言わねーの?」  オレが苦笑いで答えると、勇紀は、めちゃくちゃ楽しそうに。 『騒がない訳ないと思う。稔居るし。そうだね、じゃあもうあれか、カラオケのパーティルームみたいなとこにしちゃおうか』 「ああ――――……いいかもな。うるさくても気にならねーし」 『ていうか、玲央、オレ達の事どんだけうるさいと思ってんの』  勇紀がむー、とふくれてそうな声で言うけれど。 「否定しなかったじゃねーかよ」  そう言うと、少し黙って、それから、ははっと、笑う勇紀。 『まあ、否定はしない。――――……分かった、とりあえず、店探して予約しとく』 「ああ。よろしく」 『優月ー?』  ずっとニコニコ話を聞いていた優月は、呼びかけられて、「はーい」と返す。 『明日、優月、オレの隣ねー』 「却下」 『つか、オレ今玲央としゃべってねーし!!』  オレの一言に、ぎゃーぎゃー言い始めるが。 「優月オレの隣で端っこで」  そう言うと。 『はー? ふざけんなー! 優月真ん中。 ていうか、玲央は、ちょっと遅れて来ても良い位だよ』 「却下」  冷たく却下し続けている横で、優月は楽しそうにクスクス笑っていたけれど。 「明日、楽しみにしてるねー」  と、のどかに声を出して。  オレと勇紀のアホな掛け合いを、一瞬で回収した。 『んー。またね優月ー』 「うん、明日ね」 『じゃーなー玲央』 「はいはい」 『優月じゃーねー』 「早く切れ」 『あーもう、冷たいなー。じゃあねー、優月』 「うん、またね」  と。そこでやっと電話が切れた。  スマホを手に持ったまま。優月がクスクス笑い出す。 「ほんと、仲、いいね」 「……そーか?」 「うん。いーっつも、会話が面白い」  おもしろいって。と、思うのだけど。  優月が楽しそうにクスクス笑ってるから。  ……まあ、いっか。  ……やっぱ、明日、うるさそーだなと。  かなり、げんなりしてると、横で優月が、首を傾げながら、どーしたの??と、笑う。

ともだちにシェアしよう!