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第388話◇
車に戻って、走り出す。
「海、久しぶりで――――……なんかすごい良かった」
優月が、窓から海を見ながらしみじみ言ってる。
ふ、と笑みが浮かんで。
「なら良かった」
「ありがと、玲央」
「ん」
……何か。ほんと。
――――……ありがとうとか。人気遣う言葉とかって。
……言うべきだなーと。優月といると、思う。
まあ。こんな素直にまっすぐ言えるかどうかは、疑問が残るけど。
ポケットに入れて置いたスマホが鳴り始めて。
続いてるから、電話か、と。
「優月、ポケットから取って、誰からか見て?」
「うん――――…… あ、勇紀だよ」
「出て?」
言いながら、音楽のボリュームを下げる。
「うん……あ、もしもし? 勇紀?」
優月がすぐに、スピーカーのボタンを押した。
『あ、優月ー?』
「うん」
『玲央にかけて優月が出るとか! なんかまだ、不思議』
ふふ、と優月が笑ってる。
「何だよ、勇紀?」
『あ、玲央。これ、スピーカーになってる?』
「うん、なってるよ」
優月が笑いながら答えてる。
『あのさあ、明日なんだけど、稔も来れるって。で、なんか稔が誰か誘いたい奴がいるらしくて、それは学校で誘うって言ってたけど』
「村澤?」
『ああ、なんかそんな名前だったかも。玲央達と同じ学部だって』
「分かった。んで?」
『店なんだけど、どんなとこがいい?』
「個室。騒いでも平気なとこ」
オレが即座にそう答えたら、勇紀は、クスクス笑った。
『何それ、食べ物とかで決めるんじゃねーの?』
「今回に限っては、そっちが一番で」
『何で?』
「絶対騒ぐだろ」
『ああ――――……そう、だね、分かった』
「つか、そこ、騒がないって言わねーの?」
オレが苦笑いで答えると、勇紀は、めちゃくちゃ楽しそうに。
『騒がない訳ないと思う。稔居るし。そうだね、じゃあもうあれか、カラオケのパーティルームみたいなとこにしちゃおうか』
「ああ――――……いいかもな。うるさくても気にならねーし」
『ていうか、玲央、オレ達の事どんだけうるさいと思ってんの』
勇紀がむー、とふくれてそうな声で言うけれど。
「否定しなかったじゃねーかよ」
そう言うと、少し黙って、それから、ははっと、笑う勇紀。
『まあ、否定はしない。――――……分かった、とりあえず、店探して予約しとく』
「ああ。よろしく」
『優月ー?』
ずっとニコニコ話を聞いていた優月は、呼びかけられて、「はーい」と返す。
『明日、優月、オレの隣ねー』
「却下」
『つか、オレ今玲央としゃべってねーし!!』
オレの一言に、ぎゃーぎゃー言い始めるが。
「優月オレの隣で端っこで」
そう言うと。
『はー? ふざけんなー! 優月真ん中。 ていうか、玲央は、ちょっと遅れて来ても良い位だよ』
「却下」
冷たく却下し続けている横で、優月は楽しそうにクスクス笑っていたけれど。
「明日、楽しみにしてるねー」
と、のどかに声を出して。
オレと勇紀のアホな掛け合いを、一瞬で回収した。
『んー。またね優月ー』
「うん、明日ね」
『じゃーなー玲央』
「はいはい」
『優月じゃーねー』
「早く切れ」
『あーもう、冷たいなー。じゃあねー、優月』
「うん、またね」
と。そこでやっと電話が切れた。
スマホを手に持ったまま。優月がクスクス笑い出す。
「ほんと、仲、いいね」
「……そーか?」
「うん。いーっつも、会話が面白い」
おもしろいって。と、思うのだけど。
優月が楽しそうにクスクス笑ってるから。
……まあ、いっか。
……やっぱ、明日、うるさそーだなと。
かなり、げんなりしてると、横で優月が、首を傾げながら、どーしたの??と、笑う。
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