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第389話◇
車をラブホの駐車場にとめて、降りた所で、優月がキョロキョロしながら。
「ドキドキしてきた」
と言う。
まあ。独特な雰囲気があるのは分かるけれど。
「どの部屋が良い?」
「どの部屋って? 何が違うの?」
「んー、写真のぱっと見で好きなとこでいいよ」
「ええー……」
あんまり聞かないような情けない声を出して、優月が少しの間、部屋の説明を見ていて。悩んで優月が選んだのは、派手じゃない、白が基調の部屋だった。
「ピンクのとか無理……」
苦笑いの優月と一緒に部屋に入ると。
「うわー……綺麗」
豪華なラブホ、とあったけど。
選んだ部屋がシンプルだったからか、ラブホ感はまるでなくて、高級ホテルとかモデルルームみたいな。
「あれだね、玲央の最初のマンションに似てる」
「――――……確かに」
ラブホに似てると言われたと思って、ぷ、と笑ってしまう。
確かに、そんな使い方してたなあとか…… そんな事は優月には言わねーけど。
「おしゃれだねえ……」
周り中キョロキョろしてから、優月がオレを振り返った。
「なんか、テレビとかで見た事ある、なんかギラギラしたイメージ、ないんだね」
「お前がそういう部屋を選んだからだと思うよ。あっちのピンクのとか選んでれば、きっとそういう部屋だったと思うけど」
「あ、そうか……」
「まあ、良いんじゃねえの。落ち着くし」
「――――……そうだね」
「ここ、朝食、豪華で有名なんだって。頼んどく?」
「え、そうなの?」
「食べてから帰って、そのまま着替えて学校行けばいいよな? 学校の荷物は? 全部そろってる?」
「うん。明日は大丈夫」
「ん。頼んじまうから、待ってて。あ、優月」
「うん?」
「風呂にお湯入れといて」
「うん、分かったー」
優月がバスルームこっちかなーと言いながら歩いていく横で、受付に電話を掛ける。
「わー、なんかすごーい」
電話で話しながら、優月の楽しそうな声がして、笑ってしまう。食事の受け取り方などを聞いてから電話を切って、バスルームを覗きに行くと。優月がお湯をためながらバスタブを覗き込んでいた。
「玲央、なんか、ジャグジーがついてる」
「あぁ、そーなんだ」
「ゆっくり入ろうね」
めちゃくちゃウキウキ、そんな事を言っている。
――――……やっぱり、探検になってるな。
なんかほんと、優月って。
そういう欲、沸き起こる事って、ないのかな。
触れて引き出さないと、自分から、そういう事したいとか。
欲でムラついて、したくてたまんない、とか。
「あ、ここ窓から海が見えそう。ちょっと見てくるね。ベランダあるのかな」
ウキウキ言いながら、バスルームを出て、窓の方に急いでいってしまった。
――――……うん、ねえかな、あれは。
ここがあんまりにラブホっぽくないからか、ラブホである事すら、忘れてそう。もうちょっとギラついてる部屋にすればよかったか?なんて思いながらも。
「玲央、すごい、海と月が綺麗だから、来て来て」
カーテンを大きく開けて、楽しそうに振り返ってくる優月に。
堪えきれなくて、クスクス笑ってしまう。
こんな所で、楽しそうな無邪気な奴を見て、
なんか和むし可愛いしと、思ってる自分も。
なんか笑える。
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