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第403話◇

「もうすぐ朝食来るから、起きる?」 「うん」  オレが言うと、もぞもぞ優月が起き上がった。  そういやラブホ来て、ベッドでしないとか初かも。まあバスルームではしたけど、でも、ラブホのベッドでただ寝ただけって。と今更な事に気付いた。 「顔、洗ってくるね」  優月が言いながら、歩いて行く後ろ姿を見ながら、ベッドに起き上がって、少し考える。  何で初なんだっけ、と一瞬思って、すぐ納得。  ああ。ヤるためにラブホなんだから、しない訳ねえか。  ……優月とはずっと居るから、ここでしなくてもいいって思ってるのか。  まあそもそも泊って一緒にいるっつーのも、あんま無かったし。  優月は、誰かと付き合って、する事全部初めてかもしんねーけど。  オレはオレで、こんな風に、密着して誰かと付き合うのは初めてで。こんなに好きだとか、可愛いとか、ずっと思うのも初めてて。  だから、感じる事も。してる事も、結構初めてだと思う事が多い。  優月は、オレが全部慣れてるって思ってるんだろうけど。  ――――……実は慣れてないことの方が多いのかも。  そうなると、まっすぐで素直で、全部そのまま受け取る優月の方が、初の事に対処するのはうまい気がする。  昨日、優月に腕を組まれた時にドキッとしてびっくりした感覚が、まだなんか残ってるし。……こういうの、カッコ悪いと思うんだけど……何だかな。  そんなに嫌じゃないというか。  オレでもこんな風に思えるんだと、そう感じるというか。 「れおー」  戻ってきた優月がベッドに乗って、むぎゅ、と抱き付いてきた。 「どーしたの? だるい?」  無邪気な顔で、のぞき込んでくる。  こういうのが可愛いって思う自分の思考も、やっぱり、優月が初で。   「――――……だるくないよ。ちょっと考えてた」 「何を?」 「……昨日ベッドでしなかったなーと思って」  少しからかい含めて言って、抱き付いてる優月を至近距離で見つめると。 「――――……」  優月が、瞬きをパチパチ繰り返してる。  ぷ、と笑ってしまう。笑ってるオレに、少し赤くなって、優月が言う事に。 「オレ、も、ちょっと思ったんだけど」 「んー? 何を?」 「ベッドで、しなくていいのかなって、ちらっと……」 「そうなのか?」  意外。 「でも遅かったし、玲央朝から運転だねって話してたら、玲央が寝よっかって言ったから」 「うん。……あぁ、言った」 「あ、しないで寝る事もあるんだなって」 「ラブホ来てんのにな?」 「……お風呂でしたからいいのかなっても思って」 「うん」  まあ確かに。あれで結構満足してたな。  なんか恥ずかしそうに話してるのが可愛くて、頬や髪に触れながら話を聞いていると。 「だからすぐ寝る準備しちゃったんだけど……ほんとは、ちょっとは思ってた」  そうなんだ。……ほんと、意外。  オレから、しようって仕掛けるだけじゃなくて、優月がそっち方面、思う事があるんだと思うと。なんか嬉しいけど。 「してもよかった?」  試しにそう聞いてみると。 「え。 あ、うん」  と、すぐ頷く。 「――――……優月、お風呂でもう疲れてなかった?」 「疲れて……? んー…… でも、玲央とするの、好き」 「――――……」 「嫌な時なんて、無いよ?」  ――――……誘ってる??  思わず抱き締めて、組み敷こうかと思った瞬間。  チャイムが鳴った。優月がぱっと笑顔になって、膝立ちになった。 「あ。来たね。受け取ればいい?」  何だか、内心ものすごく、がっくりしながら。  可笑しくなってきて、苦笑い。 「受け取らなくても、ドアを開けて、置いて行ってくれるから」 「そうなの?」 「ん。顔見ないように」 「そうなんだ……だからドアから中が見えなくなってるんだ?」 「ん」  優月が耳を澄ましている。  鍵が開いて、朝食ですと声がかかり、少しして、また鍵のかかる音。 「持ってきていい?」 「いいよ。頼んでいいか? 顔洗ってくる」 「うん、用意しとくね」  楽しそうに立ち上がって、ドアの方に小走り。  ――――……ちょっと襲いかけたのに。  苦笑いとともに、洗面所に向かった。

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