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第405話◇

 しばらく優月の髪を弄っていて、ふと思う。 「……整髪料が欲しいな。さらさらすぎて、セットできない」 「あー……うん。無いね」  くす、と笑って優月が鏡越しにオレを見つめる。  まあ泊る気はなかったからな……。 「ま、いいや。これでも少し違うだろ」  ドライヤーを止めて、優月を鏡越しに見つめると。  わー、と優月が嬉しそうに笑う。 「なんか整ってるね。ありがと、玲央」 「ん」 「なんか前に玲央がセットしてくれた時さ、皆になんか違うってすぐ気づかれてさ。いいねって言われたんだよ。玲央ってすごいなーって思った」 「そっか」  ……言い方、可愛いし。  ドライヤーを片付けながら頷いていると。 「美容師さんも出来そうだよね。こんなカッコいい美容師さん居たら、絶対、予約いっぱいになっちゃうと思うけど」 「そう?」 「絶対そうだよ。予約半年待ちですって言われて、全然やってもらえないの」 「何だよそれ」 「うーん、それだと困る……」  眉を寄せて、そんな風に言ってる優月に、クスクス笑って。 「万一そうなっても、優月だけは毎日やってやるよ」 「わー……ありがとう、ほんとに??」  何やらものすごくキラキラした顔で、オレを見つめてくる。  何なんだもう、可愛いな。 「当たり前だろ。つか、美容師、なんねーぞ?」  そう言うと、優月は、そっか、と、クスクス笑いながら頷く。  ふ、と、優月がオレの真正面に立って、オレの髪に手を伸ばす。 「ん?」 「玲央もたまには寝ぐせとかついててもいいのに」 「――――……」 「ずーっとカッコいいって大変じゃない?」  何とも答えようのない、言葉に、苦笑い。 「玲央はバンドやってるから、ファンとか居るし。外でカッコ悪いってできないのかもしれないから……」 「――――……」 「オレの前でだけ、カッコ悪い時あってもいいよ??」 「んー……そう?」 「うん。全然いいよ。むしろ、玲央がカッコ悪いとこ、見たい」  あは、と笑って、優月がオレを見上げる。 「……考えとく」 「考えないとカッコ悪いとこないの? ……ん。分かった、考えてね?」  言いながら、優月が先に歩いて、部屋に戻って行く。  何となく鏡の前に立って、髪を整えて。  ふ、と笑み交じりの息をつく。  優月の前では一番カッコよく居たいと、咄嗟に思った事なんか。  言わないと、絶対ぇ分かんねーんだろうなあ……。  カッコよくなくてもいいよ、か。  かわいーな。ほんと。     そんな風に思っていると。 「ねーねー、玲央、これ、何だろう??」  優月の楽しそうな声が聞こえてきて。  ふ、と笑いながら、優月のもとに向かった。 (2022/2/21) 玲央が美容師だったら、行くかなあ。 とちょっと考えてしまいました(*'ω'*) 指名料取られてしかも高そう……笑

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