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第408話◇

 道は空いていたので、早めに家について、服を着替えて学校の準備をして、のんびり出発。出発してから、思い出して、昨日買って鞄に入れたままだった香水を取り出した。 「なに?」 「つけて良い?」 「香水? 玲央の匂い?」 「違う。優月に似合いそうだなーと思って、昨日買ったんだけど」  そう言ったら、目の前の優月の顔が嬉しそうに綻んだ。 「オレに似合いそうな香水ってなんだろう。付けてみて??」 「うなじでいい?」 「うん、どこでも……」  後ろから項の辺りにつける。 「わー……いい匂い。レモン?」 「つけ始めはレモンで、時間が経つとムスク系になるって」  へえ、そうなんだーと、優月が楽しそうに笑いながらオレを見上げてくる。 「優月はこの匂い、好き?」 「うん。好き。すっごく良い匂い」 「じゃあ、やるよ、これ」  優月の手に、小さな小瓶を渡してやると、優月は、わー、ありがとう、と顔を輝かせている。 「オレ、いい匂い?」  そう言って笑うので、少し近づいて匂いを嗅ぐ。 「ああ」 「ありがとね、玲央」  嬉しそうな優月が、香水をつけたことが無いとか、そんな話をしている内に学校についてしまった。  ずっと一緒に 居すぎる位に居るのに、ここで別れる時、いつも、別れたくないなと思うって、と、自分に少し呆れていると。  優月が、苦笑いしながらオレを見上げた。 「まだ一緒にいたいなーって思っちゃうのって、おかしいよね……」  少し言い辛そうにそんな風に言う。  ――――……自分に呆れて、口に出さないオレと、反対に、素直にそう言って、オレをまっすぐ見つめる優月。比べると違いすぎて、笑ってしまう。  ほんと、素直。  ――――……可愛い。 「……オレも、そう思ってた」 「え。玲央も? ほんとに?」 「ああ」  多分オレ。この類の事、言うのって――――……相当、珍しい。  優月と居ると思うけど、今までは思わなかった。  離れたくないとか別れ際に言われると、散々居たのに何で別れ際にまた、とむしろうんざりするような奴だったし、オレ。  思いもしなかったんだから、他の奴に言った事は無い。 「そっかー、玲央も寂しいなら…… 頑張ろうかなぁ」 「何だそれ、どういうこと?」 「オレ1人が寂しいのはやだけど、玲央も寂しいって思ってくれてるって思えば、嬉しくなる気がする」 「――――……」  キス、したい。  こんなに周りに人目が無ければ。くそ。 「待ち合わせとか決まったら連絡するから」 「うん。分かった。じゃあね、玲央」 「あ、優月」 「ん?」  香水、少し薄れたのかな。と思って、優月のうなじに顔を寄せて。 「あぁ、でもまだレモンのままだな」 「――――……っ」  皆が周りに居るからなのか、優月が、うなじをぱ、と押さえて、かあっと赤くなってる。 「あ、悪い、匂い変わったかなと、おも――――……」 「こーらーー!」 「は?」  横から、突撃を受けそうになって、咄嗟にかわすと。 「勇紀……」 「避けるなー! っか、玲央は朝から公衆の面前で、何で優月の首に顔埋めてんだー!」 「うるせー、騒ぐな」  突然の勇紀の乱入に、優月が赤いままで、あわあわしてるし。 「ちがうって。優月のうなじに香水付けたから、その匂い、今どうなったのかなってかいだだけ」 「周りの人間は誰もそんな風には思わないからな!」 「って、別にお前以外誰も気にして無さそうだけど」 「皆大人だから見ないふりしてんだっつーの! かわいそうに、こんなに真っ赤になって」  勇紀が優月を抱き締めて、ポンポン、と背中を叩いている。 「つか、抱き付くな」  勇紀をはがしていると、優月が、おかしそうに笑い出した。

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