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第432話◇
不意に稔がオレをまっすぐ見て。
「なあ、玲央、優月のファーストキス、出会って数分で奪ったの?」
稔のびっくり声が、オレと颯也と甲斐が割と静かに話していた空間をぶった切って、割り込んできた。
「――――……」
――――……まあ、確かにそうなんだけど。
なんかあの時の事。すげえ遠い昔みたいだな。
つか、何だか優月、色々話させられてるな。
なんか顔赤くしてるし。
「ほんとお前、すごすぎ、出会って数分で、優月みたいな奴のファーストキス奪うとか。どーすればできんだ?」
「びっくりしたでしょ、優月」
「し、たけど、でもオレ、その後良いって……」
優月が一生懸命何か言おうとしてるが、横の2人はうるさくて聞いてないし、智也は苦笑いで、見守ってるし。
「つーか」
オレの声に、皆が一瞬黙る。
「……今から思えば、多分オレ、そん時、一目惚れみたいなもんだから」
しーん。
更に静まり返って。
「……だから、いーよな? 優月」
なんかびっくりした顔で、真っ赤になってる優月が、皆の見守る中、うんうん、と頷いて。ふふ、と笑う。
その瞬間、「はーーー???」と、また一気にやかましくなる。
「優月騙されちゃだめだぞっ、一歩間違ったら捕まるやつだぞ」
稔のそんな言葉に、優月はおかしそうに笑って、はいはい、と頷いてる。
まあなんか、わーわー言われてるけど、優月は楽しそうで、全然問題なさそうなので、とりあえずほっとく事にする。
――――……にしても。いつこの会、終わるんだ?
と思った時。
「そろそろお開きにする? 時間的にもさ」
と、智也が言った。
去年ゼミが一緒だった。ああ、なんか。こういう、まとめるっぽいイメージだったなと、関係のない所でふと思い出す。
こういう奴と、優月は仲良くしてきたんだなーと思いながら。知らない時間に興味がわくのが、自分で不思議だったりする。
皆も時計を見て、ああ、と頷く。
「優月、今日も玲央んち帰るの?」
「あ、うん」
稔に聞かれて、優月が頷いてる。
「優月って一人暮らしなの?」
「うん。そう」
「ずっと玲央んとこ行ってるの?」
「あ、うん……あの――――……」
優月が何か言いかけて、ふ、とオレに視線を向けた。
ああ。さっきのか? 別に言っていいのに。
そう思いながら。勝手に言わないのか、そう言うの、と、少し笑ってしまう。
「優月の荷物、明日うちに運ぶ」
そう言うと、おー、と皆それぞれの反応。
「引っ越しはしないの? 荷物運ぶだけ?」
甲斐の言葉に、優月は、「親に話してから」と答えてる。
「カミングアウトするってことか?」
「そうじゃなくて、とりあえず、玲央と住むからっていう説明、ちゃんとしてからじゃないと、引っ越しはできないんだけど……」
優月がそう言うと。智也が横でクスクス笑い出す。
「――――……今初めて考えたけど。優月の親は、カミングアウトしても平気そうだけど」
「……オレもそう思うけど」
優月も笑いながら、智也を見てる。
「そっか、智也は優月の家族知ってるんだね」
「すげー優しいから。――――……玲央が、人でなしでない限り、大丈夫だと思うけど」
そんな事を言いながら、こっちに視線を投げかけてくる。
「いやいや、過去の玲央の様子を話したら、どんな優しくても……」
と、稔が言って、また優月がクスクス笑ってる。
あそこ、もう、あのパターンが出来上がってる気がする。
(2022/3/22)
◇ ◇ ◇ ◇
昨日のブログで「恋なんかじゃない」について
書いてます(*´ω`)
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