426 / 830

第432話◇

 不意に稔がオレをまっすぐ見て。 「なあ、玲央、優月のファーストキス、出会って数分で奪ったの?」  稔のびっくり声が、オレと颯也と甲斐が割と静かに話していた空間をぶった切って、割り込んできた。 「――――……」  ――――……まあ、確かにそうなんだけど。  なんかあの時の事。すげえ遠い昔みたいだな。  つか、何だか優月、色々話させられてるな。  なんか顔赤くしてるし。 「ほんとお前、すごすぎ、出会って数分で、優月みたいな奴のファーストキス奪うとか。どーすればできんだ?」 「びっくりしたでしょ、優月」 「し、たけど、でもオレ、その後良いって……」  優月が一生懸命何か言おうとしてるが、横の2人はうるさくて聞いてないし、智也は苦笑いで、見守ってるし。 「つーか」  オレの声に、皆が一瞬黙る。 「……今から思えば、多分オレ、そん時、一目惚れみたいなもんだから」   しーん。  更に静まり返って。 「……だから、いーよな? 優月」  なんかびっくりした顔で、真っ赤になってる優月が、皆の見守る中、うんうん、と頷いて。ふふ、と笑う。  その瞬間、「はーーー???」と、また一気にやかましくなる。 「優月騙されちゃだめだぞっ、一歩間違ったら捕まるやつだぞ」  稔のそんな言葉に、優月はおかしそうに笑って、はいはい、と頷いてる。  まあなんか、わーわー言われてるけど、優月は楽しそうで、全然問題なさそうなので、とりあえずほっとく事にする。  ――――……にしても。いつこの会、終わるんだ?  と思った時。 「そろそろお開きにする? 時間的にもさ」  と、智也が言った。  去年ゼミが一緒だった。ああ、なんか。こういう、まとめるっぽいイメージだったなと、関係のない所でふと思い出す。  こういう奴と、優月は仲良くしてきたんだなーと思いながら。知らない時間に興味がわくのが、自分で不思議だったりする。  皆も時計を見て、ああ、と頷く。 「優月、今日も玲央んち帰るの?」 「あ、うん」  稔に聞かれて、優月が頷いてる。 「優月って一人暮らしなの?」 「うん。そう」 「ずっと玲央んとこ行ってるの?」 「あ、うん……あの――――……」  優月が何か言いかけて、ふ、とオレに視線を向けた。  ああ。さっきのか? 別に言っていいのに。  そう思いながら。勝手に言わないのか、そう言うの、と、少し笑ってしまう。 「優月の荷物、明日うちに運ぶ」  そう言うと、おー、と皆それぞれの反応。 「引っ越しはしないの? 荷物運ぶだけ?」  甲斐の言葉に、優月は、「親に話してから」と答えてる。 「カミングアウトするってことか?」 「そうじゃなくて、とりあえず、玲央と住むからっていう説明、ちゃんとしてからじゃないと、引っ越しはできないんだけど……」  優月がそう言うと。智也が横でクスクス笑い出す。 「――――……今初めて考えたけど。優月の親は、カミングアウトしても平気そうだけど」 「……オレもそう思うけど」  優月も笑いながら、智也を見てる。 「そっか、智也は優月の家族知ってるんだね」 「すげー優しいから。――――……玲央が、人でなしでない限り、大丈夫だと思うけど」  そんな事を言いながら、こっちに視線を投げかけてくる。 「いやいや、過去の玲央の様子を話したら、どんな優しくても……」  と、稔が言って、また優月がクスクス笑ってる。  あそこ、もう、あのパターンが出来上がってる気がする。   (2022/3/22) ◇ ◇ ◇ ◇ 昨日のブログで「恋なんかじゃない」について 書いてます(*´ω`)

ともだちにシェアしよう!