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第435話◇

「優月、明日の朝のパンとか買いにいこ?」 「うん」  マンションの下にある店に入って、カゴを持って2人で買い物。 「そーいえば……」 「ん?」 「オレ、こうやって明日の朝の食材一緒に買うのも、お前が初めて」 「そうなの?」 「そんな長く一緒に居ないし、一緒に何か作ろうとかないし」 「そっか」  優月はふふ、と笑ってオレを見つめる。 「オレ、玲央の初めてをいっぱい貰ってる感じ……?」 「そうだなー。オレ、今までやってねー事、結構あったんだなーと最近よく思ってる」 「そうなの?」 「オレさ、色んな事経験してると思い込んで生きてきたような気がする」 「でも、玲央はほんとに何でも知ってそうな感じがするけど……」 「……なんかそう思ってた。全然違ったみたいだけど」 「全然って事は、絶対無いと思うけど」  優月はそんな風に言いながら、オレを見上げてくる。 「色んな事知ってると思うけどな」 「どうだろうな。意外と普通の事、してない」 「……普通の事かあ。んー……普通の事、って、何が普通かって、難しくない? オレ、どれが普通なのかもよく分かんないけど……」 「……普通のデートとかも、そういえばあんました事ないかも。中高ん時に、学校帰りにどっか寄ったりとかはあったけど」 「じゃあ今度、どこかデートしよ? 映画とか見る? 遊園地とか、行く?」 「ん、行こ」 「即答だね」と笑ってから、「どこ行こうか決めようね」と、優月が楽しそうに言う。「ん」と頷いてから。 「なあ、優月、パンとご飯どっちがいい?」 「んー……パンかなぁ」 「OK。玉子買ってこう」 「うん」  カゴに玉子を入れてから、あ、と優月が笑った。 「何?」 「玲央は目玉焼き、どうやって焼くのが好き?」 「どーやって……普通にフライパンで焼くけど?」 「蓋する? 水入れる? 両面焼いたりする?」 「ああ、そーいうことか……そのまま裏がかりっとして白身が固まれば」 「うちの家族さー皆好きなの違うの。弟は両面焼いてかりっとして黄身も固いのがよくて、妹は、水入れて蓋して白身も黄身も柔らかいのが良いって。父さんは玲央と一緒で、母さんは、もうなんでもいいって言ってて」 「優月は?」 「オレほんとになんでもいいんだけど……どれも美味しいし」 「それどーやって焼くんだ?」 「だからね、ちっちゃいフライパンも使って、同時で違うの作るの」 「……大変だな」  想像して、クス、と笑ってしまう。 「でしょー? 母さんは、もーなんでも美味しいでしょ、て言うんだけどね」  オレもそう思うんだけど、と優月がクスクス笑う。 「明日、目玉焼きにするか?」  オレが言うと、優月は楽しそうに笑って頷く。 「うん。いーよ」 「どれで焼く?」 「玲央が好きなのでいいよ?」 「オレがやったことないやつ試してみるか。優月、どれが好き?」 「んー……黄身半熟で、白身パリパリ?」 「オッケ、じゃあ明日はそれで焼こ。で次はまた違うので」 「うん。分かった」  ふ、と笑んで見つめ合って。 「優月の家族、やっぱり、会ってみたい」 「……普通だけど」 「目玉焼きの話も、したい」 「え、したい?」 「したい。ていうか、その話してるとこ、聞いてみたい」  言いながら頷くと、優月はめちゃくちゃ楽しそうに笑って、うん、と頷く。

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