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第436話◇
もうだいぶ遅い時間で、店ももうすぐ閉店なので、ほとんど人は居ない。
必要なものをカゴに入れながら、優月と色々話しながら歩く。
「じーちゃんとこ行ったら。今度、優月んち、行こ」
「うん」
「カミングアウトしなくてもいいから。でも、一緒に住む挨拶しに行こう」
「……ん」
少し返事に時間が空いたので。
「ああ、カミングアウト、してもいいよ。そこは優月が決めていーから」
そう付け加えて言うと、優月は、ふふ、と笑った。
「オレは言っても大丈夫だなーと思ってたの。うちの家族は反対はしないんじゃないかなぁって……」
――――……まあ。
優月が育つ環境、だからなあ。家を出て行けとか、勘当されるとかの情景は、まったく思い浮かべられないけど。
「智也が、人でなしでない限り大丈夫だって言ってたよな」
「ん? ……あ、言ってたね」
一瞬きょとんした後、笑顔で、うんうん頷いて。
「玲央、人でなしじゃないから、大丈夫だね」
と、クスクス笑ってる。
「でもオレの今迄の交友関係とか聞いたら、反対するかもしれないよな」
「そうかなあ?」
「そうだろ」
「でも玲央は、別に恋人が居て二股してたとかじゃないし。父さん母さんは大丈夫」
「父さん母さんは、てことは?」
優月がクスクス笑い出す。
「双子はまだ子供だから、言わなくていいかも。大丈夫、言ったでしょ、カッコいい人大好きって」
「ああ。オレ、カッコよくして行かないとだった」
「むしろ、あんまりカッコよくしちゃうと、玲央取られそうだから」
優月が 面白そうに笑う。
「双子は、顔似てんの?」
「んー……そうでもないかなあ? 男女だから髪型が違うし、似てるんだけど、うりふたつって感じじゃないよ」
「優月とは似てる?」
「うん。そこも、ちょっと似てるかも」
――――……優月みたいな顔が3つか。
しかもちょっと、幼いって事だよな。
「……早く、行こうぜ、優月んち」
「え、どうしたの、急に」
きょとんとして顔を見つめてくる優月に。
「お前に似てる双子、早く見たいし」
「――――……」
「早くちゃんと一緒に暮らしたいし」
そう言うと。
優月は、ふわふわと嬉しそうに笑った。
「希生さんに会ったら。行こうね。話しとくから。一緒に暮らしたい人が居るからって」
「ん」
頷きながら、買い終えたものを袋に詰めて、店を出た。
「明日、車で優月んちに行くから。必要なもの考えておいて」
「うん」
エレベーターの階数ボタンを押して、優月と少し考える。
「学校の道具と服と――――……あと何だろうな?」
「んー……? そう言われると、大事な持ち物ってそんなに無いのかも。オレ、ここでもう生活できてて、あんまり困ってないし」
「まあ。優月だけでぽんと来てくれても、大丈夫なように揃えるけど」
クスクス笑いながらオレが言うと、優月はふ、と笑う。
「なんか、オレ、お嫁にくるみたいだね」
「――――……」
お嫁。
――――……お嫁だって。
くっ、と笑ってしまう。
なんか、マジ。
可愛いな。言い方。
鍵を開けて、笑ってるオレに首を傾げてる優月の腕を取って、中に引き入れる。
「――――……玲央……?」
ドアに背を押し付けられたまま、オレを振り仰ぐ優月を見下ろして。
「嫁にくんの? 優月」
「……なんか。身一つで来てもいいよ、みたいな事言うから、つい」
「いーよ。嫁にきな、優月」
なんか可愛くて、可笑しくて、笑ってると。
じっとオレを見つめた優月が、ふわ、と笑って。
ちゅ、とキスしてきた。
「うん」
にっこり笑んで頷くのが可愛くて。
顎、そっと固定して。そっと、キスした。
……何だかなー。ほんと。
――――……嫁に来な、とか。
何言ってんだか、オレ。
思いながらも。
なんかすげー、心ん中、あったかい気がする。
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