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第442話◇
食事の下準備を大体終えて、優月、起こそうかなと思っていたら、急いで歩いてくる足音。
「玲央、おはよ」
「はよ。そろそろ起こそうかと思ってたんだけど」
「一緒に起こしてよー」
困った顔をしながら、優月が近づいてくる。
……困った顔、可愛い。
そのまますっぽり抱きしめて、「昨日疲れただろうから。ちょっときつかっただろうし」言いながら、抱き締めたまま頭を撫でていたら。
じっと、下から見つめられて、笑ってしまう。
「だけど……一緒に準備したいし。あ、玲央もう、シャワー浴びたの?」
「ん、さっき浴びた」
「何時に起きたの?」
「30分位前」
「……明日から起こしてね??」
「ん。分かった」
額にキスして頷くと、優月がやっと、ふ、と笑む。
「シャワー浴びといで」
「うん。ごめんね」
「謝んなくていいよ。行ってきな」
「うん――――……」
「ん?」
離れずに見上げられてるので、見つめ返すと。
ちゅ、と頬にキスされた。
「いってきます」
「……ん」
する、とあっという間に離れて、部屋を出て行った。
頷いてから――――……キスされた頬に、なんとなく触る。
こんな風に、優月からするキスって。
オレ以外には、今までした事ないんだろうし。
自然としたんだろうなと思うと、なんか、すげえ、可愛い。
そんなにキスが好きだと思ってた訳じゃないけど、別に行為の一環でキスはしてたし。
――――……オレは、慣れてるのに。
ちょっと頬にキスされた位で、何だか照れくさいような、こんな感覚って。意味わかんね。
そう思いながらも、、何だか、顔が綻んでしまう。
そうだ、今日は優月の物、うちにもってくるんだ。
――――……本格的な引っ越しは、また別だけど。
昨日約束した目玉焼きを焼く準備をしながら。
優月の家族、思い浮かべたりする。
あんな風に育ったのは、優月が持って生まれた性質ももちろんあるんだろうけど。やっぱり家族が一番、影響あるんだろうなと思うと。
早く会ってみたい。
優月にも言ったけど、すごく興味がある。
あと、双子の弟と妹にも。
どんな中で優月が育ったか、知りたいとか。
今だけじゃなくて、昔の優月も見てみたいとか。
どんだけだよ、って感じ。
――――……とりあえず。
今日荷物、運んで。優月、ここに連れてきて。
じいちゃんとこに、行って。
そしたら。
優月んち、行こう。
で、引っ越してきてもらう。
――――……て、急ぎすぎか?
そんな事を考えていたら、コーヒーメーカーの終了音。
カップに入れて、少しコーヒーを口にする。
今まで欠片も思わなかったような事を、
そんなに急いでやってしまって。
その内後悔とかする、だろうか。
未知の感覚だから、自分でも、この先どうなるかなんて、はっきりは言えないっていう、そんな事も、思ったりはするけど――――……。
「ただいまー」
のんきな声がして、ほかほかあったかそうな優月が、髪を拭きながら現れた。
「コーヒー、すごく良い香り」
嬉しそうに笑う顔を見た瞬間。
「優月」
「うん?」
呼んだオレに近付いてきた優月を、またぎゅ、と抱き締めてしまう。
「……いーにおい」
「うん、ほんとに」
優月はクスクス笑うけど。
「コーヒーじゃなくて、お前」
そう言うと、え、と赤くなる。
「れ、玲央のシャンプーが良い匂いなんだけど」
と、言いながらうろたえてるのが可愛くて。
「オレから匂っても、こんないい匂いって思わないから」
クスクス笑いながら、言ってると。
「匂い、かがないで」
と、なんだか恥ずかしそうにされると。可愛くて笑ってしまう。
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