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第460話◇

【side*玲央】  優月と渋々別れて……。渋々というのは、オレの内心だけで、優月はあとでねーと、明るい笑顔で離れて行ったけれど。  で、教室に入ると、稔が待ってた。  ……授業かぶってんの多い。 「玲央さん、おかえりなさい」  そんな変なセリフでオレを迎える。  離れた所に座ろう。稔と席を空けようとすると。「嘘嘘、こっち座れよー」と笑いながら騒ぐので、仕方なく稔の横に座ると。 「つか、いちゃいちゃしてきたの?」 「――――……少しな」 「ほんとに少しかー?」 「何だよ」 「玲央の事だから、最後までちゃちゃっと済ませてきちゃったんじゃないの」 「ある訳ないだろ。アホか」 「……いや、ありえる」  うんうん、とアホみたいに頷いている稔に、首を振る。 「んな事して、そんな顔させたまま、授業に行かせる訳ないだろ」  オレの言葉に、ぴた、と固まって。  稔は、はー、とため息。 「そうだった。超過保護の超甘やかしだった……」 「……なんだ、それ」 「玲央の優月への態度」  稔が可笑しそうに笑って、オレに視線を向ける。 「優月は、甘々の玲央しか知らないんだよな?」 「……んー……」 「あれっ? いつ会ったの? そういえば」 「――――……」 「優月とどこで会ったんだっけ? 最初から可愛いって思った?」 「……優月が可愛がってる黒猫を、オレが抱いてた」 「――――……んん???」 「疲れてベンチで一休みしてたところに、黒猫が来て抱いてたら……優月がエサをあげに来て」 「……うん。で?」 「――――……」  すでに怪訝そうな顔をしているので、言うのに躊躇いを感じるが。 「……そん時、誘った」 「何に誘ったの?」 「――――……寝てみないかって」 「ん?」 「オレと寝てみない?って」 「はい?? え? いきなり? 脈絡なく?」 「あーと。……キスしていいか聞いて、キスした」 「……はあーー??」 「キスして、それが良くて、オレと寝てみないかって、聞いた」  まあそうなるだろうと思ったけれど、稔はめちゃくちゃ嫌そうな顔をして、無言。 「嘘だろ? それで、優月、それに乗ったの?」 「……まあ。結果的には、そうだな」 「意味が分からん」  稔が珍しくふざけず、真剣な顔で見つめてくる。  どうやらおちゃらける気すらしないくらい、理解不能に陥ってるらしい。 「――――……」  しばらく稔がオレを見たまま固まってるが。  無視して、とりあえず、ノートやシャーペンを取り出す。 「……ああ。分かった」  稔が、ようやく声を出して、オレを見たので、「何が?」と聞いたら。 「どっちも、一目惚れっつー事か」  そう言われて。  じっと、見つめ返してしまう。  ――――……この話聞いて、その結論になる。  うるさいし、いつも騒がしいし。  遠慮なく絡むし、からかうし。めんどくせーんだけど。  ……まあ。多分。こんな風に一緒に居るのは。  こいつのこーいうとこ、かもなぁ……。  と、眺めてしまう。 「え? 何、違うの? それなら、今までの流れも、納得してやるけど?」  そんな風に言ってオレを見つめ返してくるので。 「――――……まあ、遠くはないかな」  そう答えたら。  稔は、ふーん……とゆっくりした口調で言って、クスクス笑った。  

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