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第462話◇

 マンションの部屋の鍵を開けて中に入り、玄関に置いてある車のキーを手にする。教科書が入った鞄は玄関に置いて、スマホと携帯だけ持ってから、優月を振り返る。 「もうこのまま行ける?」 「うん。あ。鞄、小さいのにしてくる」  中に入って行って、小さ目のショルダーバッグを手に戻ってきた。 「お待たせ」  言いながら、靴を履き終えて立ち上がった優月を引き寄せて、ちゅ、とキスする。すると、優月はいつもどおり、ふわ、と笑う。  微笑まれると、もっとキスしたくなって。  唇に触れると、優月の手が背に回る。  背というか腰の辺りに、少し捕まるみたいにくっついてくる。  それがいつも、この上なく、可愛い、と感じる。 「玲央……」  キスが離れると、名を呼ばれる。  なんか、優月に呼ばれると、嬉しい。 「優月」  頬に触れて、ちゅ、と額にキスをする。 「――――……好きだ、優月」 「――――…………」  優月は、でっかい目で、まじまじと見上げてくる。パチパチと瞬きをしている。しばらくそのままで。それから、ふわふわと笑んだ。 「……この世で一番カッコいい、好きだ、だと思っちゃった」  なんて言われて、ものすごく可愛く思えて、笑ってしまう。 「優月の荷物、取りに行こ」 「うん」 「――――……オレんちで暮らせるように、な」 「うん」  またにっこり笑って、優月がオレを見つめる。 「……よし、行くか」 「うん」  ドアを開けて優月を外に出してから鍵をかける。エレベーターで地下の駐車場に降りた。  車に乗って、シートベルトをして、走り出した所で、優月が「あ」と呟いてスマホを取り出した。 「電話?」 「うん。出ていい?」 「いいよ」  そう言いながら、かけていた音楽のボリュームを落とすと、「もしもし?」と優月が電話に出た。 「|一樹《いつき》? うん? ……うん。ん……」  しばらく、相槌だけを続けて、優月が、話を聞いている。 「ん――――……|樹里《じゅり》は? なんて言ってる?」  ん、だけでずっと話を聞いてるみたいで。信号で止まった時に、ちら、と優月に視線を向けると、気づいた優月が、ごめんね、と声にせずに謝ってくる。  笑んで見せて、首を横に振る。  何も言葉を入れず、ん、とずっと聞いてあげてる優月の話し方が可愛いので、全然良い。なんて、思う。    車を走らせながら、「ん、じゃあね」と声がして、優月が電話を終わらせた。 「ごめんね、長くて」 「ん」 「双子が、喧嘩したみたいで。弟の方からだった」  クスクス笑って、優月が言う。 「あぁ。そうなんだ。もう平気なのか?」 「うん。ちょっと電話するのも久しぶりだったし、オレに言いたいだけだから……多分後でもう一人からも電話来るかも」 「――――……双子の名前、そういえば、聞いてなかったかも」  あ、そうだったけ?と優月が笑って。 「弟が、一に樹木の樹で『一樹』、妹が、樹に里で『樹里』だよ」 「いつきと、じゅり?」 「うん」 「良い名前だな」 「ほんと?」  嬉しそうな顔で、優月がオレを見つめる。 「ん?」 「オレがつけたの」 「そうなのか?」 「うん。母さんが持ってた姓名判断の本見て、すごい考えた」 「優月が名付け親なのか」 「そーなんだよねー」  ふふ、と嬉しそうな笑顔に、こっちまで笑みが浮かんでしまう。

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