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第469話◇
荷物を詰め込む時間より、違う所で、何だかとっても時間がかかった気がするけど。何とか詰め込み終わった。
「忘れてたら取りに来ればいいし。とりあえず学校の物、忘れてなければどうにかなると思うけど。もう平気か?」
「うん。ありがと」
鞄のファスナーをじー、と閉めながら、玲央を見上げる。
「じゃ行くか」
「うん」
頷いた所で、鞄を玲央がひょい、と持ってしまった。
「玲央、オレ自分で持てるよ」
「うん。まあ。――――……いいよ、別に」
でも持つもの一個しかないし……。と思ってると。玲央の手が、オレの頭に掛かって、引き寄せられた。
「なんかまだぼーー、とした顔してるし」
クス、と笑って、オレを斜めに見つめる。
「……してる?」
「してる」
クスクス笑って、クシャクシャと、オレの頭を撫でてくる。
――――……確かにオレまだ。ずーっと、ぼーー、としてる。
なんか。さっき気持ち良かったまま。ぼーー、と熱くて。
「オレのせいだろ」
「――――……」
「だから持ってやるって言ってンの」
ふ、と笑う玲央の瞳が、ドキドキしてしまう位、優しいので。
もう素直に、ありがとう、と言ってみると。
「ん」
と、満足げな玲央。
「……優しい、玲央」
「――――……まあ……つか。我慢できずに触ったのオレだしな」
「それでも、優しいよ」
言うと、玲央は、ちょっとだけ、照れたみたいな顔で、苦笑い。
「まっすぐ、優しいとか言われると――――……照れる」
……照れるとか、玲央に言われると。
オレの方が、照れるし。
なんか。胸の奥の方が、きゅんとする。
きゅんとするって。
ほんとにきゅんとするんだよね。
不思議。
……どこがそんな音、立てるんだろ。
そんな、よく分からない事を考えながら、玲央と玄関について、靴を履く。
「行って平気?」
「うん。平気」
頷くと、玲央が玄関を開けて、外に出る。
あとからついて出て、鍵をかけていると。
人の気配がして、と同時に。
「優月くん?」
呼びかけられて、声の方を見ると。
「あ、春さん」
見知った顔に、ふ、と笑顔になる。
「こんばんはー」
「うん、こんばんは。 何か久しぶりだね?」
「ぁ、そう、ですね」
隣に住んでる、|江波 春仁《えなみ はるひと》さん。
背は玲央と同じ位。短めの短髪。面倒見が良い人で、良く声をかけてくれるというか。去年住み始めた時に挨拶に行った時に、同じ大学の先輩だと知って、それから、何かと絡んでくれて。優しい、お兄さんて、感じの人。
会った時、3年生、今はもう4年なので、あまり大学にも行かないみたいで、学校で会う事はほとんど無い。
「優月くんさ、なんか、家に居なくない?」
「あ。呼びました?」
「実家から果物とかお菓子が届いてさ。分けてあげようと思ったんだけど」
「わー、ごめんなさい……」
「いいんだけど。 結局全部食べちゃったし」
クスクス笑われて、すみません、と笑うと。
春さんが、ふと、玲央を見やる。
「あ。えっと……玲央、お隣さん。4年生の春仁さん、だよ」
「……どうも。こんばんは」
玲央が、そう言って、オレをちら、と見る。
「春さん、オレと一緒の2年で……」
「神月玲央くんでしょ?」
オレが言う前に、春さんがそう言って笑顔。
「知ってるんですか?」
「うん。バンドの演奏、聞いた事あるし。優月くんと仲いいの、意外。よろしく」
春さんの言葉に、「玲央、ほんとに有名人だね」と笑うと、玲央は苦笑いしてる。
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