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第470話◇

「また今度ご飯たべようね、優月くん」  明るくそんな風に言って、春さんは、自分の部屋のドアに鍵を挿しこんでる。 「あ、春さん、まだ日は決まってないんですけど、オレ、引っ越すことになりそうで……」 「え、そうなの? 何で?」 「……一緒に住もうかなって思って」 「へえ? 女の子?とか?」 「あ、いや、じゃなくて――――……」  オレが、ちら、と隣の玲央を見上げると。 「神月くんと、住むの?」  不思議そうな顔で、春さんが言う。  オレが、笑顔で頷くと、ふーん?と言いながらも、春さんも笑顔。  だったんだけど、まっすぐ向かい合った瞬間、春さんが首を傾げて。 「……つか、なんか、優月くん、熱でもある?」  ふと伸びてきた手が、額に触れた。   「……熱は無いかな。なんかぼーっとしてない? 平気か?」  言いながら、手はすぐ外れる。 「元気ですよ」  ちょっと、ぼーっとしてるのは、別の理由、だし。  少し恥ずかしくなりながら、そう言うと。 「疲れてるなら早く寝なよね」  言われて、はい、と頷く。 「とりあえずまたね。ほんとに引っ越し決まったら教えてよ」 「はい」 「じゃあね」  春さんがオレと玲央に視線を投げて、そのまま部屋に入っていく。  見送ってから、オレは、玲央を見上げた。 「春さんね」 「ん」 「すごく面倒見良い人でさ」 「ん」 「ていうか今のだけでも、面倒見いいの、分かるでしょ?」 「そうだな……行こ、優月」  玲央に腕を引かれて、歩き始める。 「同じ大学って分かったから余計だと思うんだけど、ほんと良くしてくれて。授業の事とかも色々教えてもらってね。あと、なんか、色々食べ物とか貰ったり……」  と、春さんの話を、何気なくしていたのだけれど。  玲央から、ん、しか返ってこない事に、ふと、気づいた。  ……あれ? ……あれ。これって。 よくなかった……??  今までならこんな事。絶対気づかなかったのだけれど。  マンションのエントランスから出て、客用駐車場にとめてあった車に乗り込んで。ちら、と玲央を見つめると。  ふ、と気付いた玲央がオレを見つめ返す。 「――――……」  何も言えなくて、ただじっと、見つめ返していると。  玲央が、何回か瞬きをしてから。手を伸ばしてきて、オレの頭を撫でた。 「――――……優月」  よしよし、と頭めちゃくちゃ撫でられて。 「ごめん」  ふ、と笑まれて。ちょっとホッとする。 「優月に仲の良い奴が居ても当たり前……だって分かってるんだけど」  そのまま、おでこに、玲央の手が触れる。 「……これに、ちょっとムカついただけ」  あ。さっきの。熱あるかって聞かれた時の……。 「……って言っても、別に本気で嫌だとか、そこまでじゃないよ。何となく。オレのって、思っただけ……つか。言わないですまそうと思ったのに」  玲央は、はー、とため息を付きながら、オレから手を離して。ハンドルに手をついて、ちょっと突っ伏した。 「すぐバレる、とか――――……かっこ悪……」  そんな言葉に、思わず。  ふ、と微笑んでしまった。 「玲央」  そ、と腕に触れると。突っ伏したまま、ちら、と見られて。 「いつもは触られてなかったよ? 春さん、そんな感じ無いから。さっきは熱計っただけ。心配、しないで」  きっと、今までの事も、心配してるんだろうなぁと思ってそう言うと。 「……嫉妬なんてする奴、めんどくせーって……」 「え??」 「そう言ってた頃のオレを、ちょっと殴りたい」 「……何それ」  ふ、と吹き出して。  クスクス笑ってしまう。

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