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第471話◇

 玲央がハンドルから顔を起こして、ふ、と息を吐いた。 「ごめんな。心細そうな顔させた。……気を付ける」  よしよし、と撫でられて。  優しい笑顔と言葉に、何だかとっても気持ちが暖かくなる。  ……でも。気を付けるって。  気を付けるって、何だろ。 「……とりあえず、飯食って帰るか。優月、何、食べたい?」  言いながら、シートベルトをはめた玲央の腕に触れた。 「?」  玲央がオレをまっすぐ見つめる。 「あのね、玲央」 「ん。なに?」  ふ、と笑んで。頬に触れて、すり、と撫でられる。 「オレさ。ほんとに嫉妬したこととか、考えても、あんまり、なくてさ」 「ん。分かる。――――……オレがした事なかったのとは、なんか違う意味で、無さそう、お前」  クシャクシャ頭を撫でられて。そのまま玲央の手が、オレの手に触れて、指を、きゅ、と握った。 「玲央のと違うかは分かんないけど……オレ、あんまり、人と比べてどうとか……あんま感じないというか……嫉妬ってさ、好きとかだけじゃなくてさ、才能ある人に嫉妬したりとか。色々あると思うけど……」 「ん」 「蒼くんとかって色々すごいし。嫉妬する人も居るんだろうなって分かるんだけど……近くで見てても、すごいなーとしか思わないんだよね。なんか色んな意味でも、あんまり嫉妬とか……そういう感覚が、今まで無くて」 「ん。分かる」    オレの指と、指を絡めて遊びながら、玲央がクスクス笑ってる。 「でもオレ、別に好きじゃないとか、執着してないとかじゃなくて……」 「ん。それも分かってる」  穏やかに言う玲央の手を、きゅ、と握って。 「……だけど、ね?」  ん?と玲央が首を傾げてくる。 「――――……今まで、嫉妬なんてって思ってた玲央が……オレの事で、嫉妬してくれるっていうのは」 「――――……」 「それは、……なんか、すごく、嬉しいよ?」  そう言うと。玲央は、じーっとオレを見て。ちょっと困ったような顔で、笑った。 「んー。……つか、面倒じゃないか? オレは今までは嫉妬されるのとかほんと面倒で……喧嘩にしかなんねえし。――――……だからさっきのとか。優月にも、相手にも、そんな感情全く感じなかったのに、それでも、なんかムカムカするって……なんかオレは、自分が嫌だけど」 「……さっき、玲央、気を付けるって言ったけど……それってどういう意味?」  そう聞いたら、玲央は、しばらく考えてから。 「あほみたいに嫉妬して、優月に心細そうな顔させないように気を付けるって言った」  と言って、苦笑いを浮かべながらオレを見つめる。  やっぱりそう言う意味なんだと確認して、オレは首を横に振った。 「オレは、嫉妬してくれたら、さっきみたいに言ってくれた方が、良い」 「――――……」 「さっきオレが、心配してたのは、玲央が何も言わなかったからだよ? 言ってくれてからは、嬉しいだけだったし」 「……嫌じゃないのか?」 「うん。嫌な訳ない」 「じゃあ分かった。嫉妬したら、即言う」 「……うん」  イタズラっぽく笑う玲央に、ふふ、と笑ってしまうと。 「あー……昼休み」 「え?」  オレの指から手がすり抜けて。玲央の指が頬をつまんだ。 「女にも男にも、触られ過ぎ、お前」 「え?」 「肩組まれたり、顔さわられたり」 「……そんな事してた? 顔??」 「なんか 取ってもらった? 髪の毛とか睫毛とか」 「……あ、睫毛……」  あ、そんな事あったような。あ。見られてたの? ……ていうか。それも、ちょっと嫉妬したっていう話?  玲央をじっと見つめていると。 「オレ、誰かがお前に触るの、嫌なのかも」  玲央が両手でオレの頬を挟んで、めちゃくちゃぶにぶに、潰してくる。 「……っ 変な顔になるよー」 「ふ。かわいー」 「そんなわけないー」  言っても離してくれないで。  楽しそうな玲央に、ひとしきり、ぶにぶにされる。  

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