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第472話◇

 顔つぶされた後、めいっぱい頭くしゃくしゃ撫でられて。 「お前撫でてると、じーちゃんが飼ってた犬を思い出す」 「……希生さん?」 「ん。昔な。ポメラニアン」 「……似てますか?」 「ん。似てる。……何で敬語?」  クスクス笑われて、とりあえず、乱れた髪の毛を直していると。玲央もクスクス笑ってオレの髪を整えながら。 「昼休みさ。ちょうど見える位置にお前が居たから、何となく目に入ってて」  そう話し出した。 「……うん?」 「まあ。なんつーか。優月が好かれてるのは、分かったというか」  苦笑いの玲央。  ――――……そんなに触られてたっけ、オレ。  ……まあ。昔から、そう言えば友達との距離は近かったような。言われたこともあるような気もしてくるような。  でもそんなの、あんまり、気にした事もなかったけど……。 「あ。……それでもしかして、お昼の最後、呼んでくれたの?」  ん?と玲央がオレを見て。 「それでっていうか――――……あー。でも、そうかも。最後にオレが触りたかったのかもしれない」  自分の気持ちを確認するかのように、考えながらそんな風に言う玲央に。  ふ、と笑ってしまう。  最後にオレが触りたかった、って……。 「……玲央のヤキモチ、可愛いね。 嬉しい」  可愛い、という表現、多分いまいちなんだろうなと、言ってから思った。  ちょっと複雑そうな顔をしてから、玲央が少し息をついて。 「嬉しいとか言ってると、その内、大変かもよ?」  そんな風に言って、少し笑って見せる。 「んー……大変じゃないと思うけど」  どうなっても大変なんて思う日が来るとは、思えないんだけどな。  玲央が、ヤキモチ妬いてくれるのは。やっぱり嬉しいと思う。  オレをじっと見つめた後。  玲央は、ふ、と笑んだ。 「――――……いつか、優月にヤキモチ妬かせたいな」 「え。……今だってちょっとは嫌な気はすると思うよ? 玲央が誰かにめちゃくちゃ優しくしてたらきっと……」  言ってる途中に玲央が、ぷ、と笑い出した。 「そんな可愛いのじゃなくてさ。……めちゃくちゃヤキモチ妬いて、優月が怒る、みたいな、嫉妬」 「えー……」  ……そんな風になるかなあ……?   「んー……わざと、嫉妬させないでね?」 「ん? ――――……ああ。わざと? ヤキモチやかすような事?」 「うん」  心配で見つめてると。  玲央は、クスクス笑い出して。ちらっと外に視線を流したかと思ったら。  オレを引き寄せて、ちゅ、と一瞬だけ、キスした。 「――――……しないっつの」  くしゃくしゃ、と髪の毛また撫でられて。  玲央が、優しく、瞳を緩める。その瞬間、突然、思ったのは。 「あ、玲央」 「うん?」 「玲央が、今の顔で他の人、見てたら」 「ん?」 「……すごく、妬くかもしれないって…… 今思った」 「――――……」  数秒前まで、そんな妬く事あるかなと思ったのに。  玲央の、顔、見てたら。 唐突にそう思って。  そのまま言葉にしてみたら。  きょとん、とした顔をして。玲央は自分の顎に触れた。 「……つか、オレ、どんな顔してた?」  その言葉に玲央と見つめ合って。ふ、と笑ってしまう。  ――――……そっか、意識、してないで今みたいな顔、してくれてるんだ。  優しい、顔。可愛いな、とか思ってくれてそうな。愛しそうに、見つめてくれてる、顔。  自然と、してくれてるんだなと思ったら。  何だかすごく嬉しくて。  ……やっぱり、玲央に妬いたって、泣き付くことはないかも。  目の前に、こんな感じで玲央が居てくれるなら、それでもう、なんでもいいやって、なりそうな気がする。  ふふ、と笑ってると。ちょっと不思議そうにしてた玲央も、クスクス笑って。 「行くか。……何食べたい? あ、ベルトして、優月」  そう言いながら、車のエンジンをかけた。

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