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第473話◇
オレがシートベルトをすると同時に、車を走らせ始める。
食べたい物を聞かれて、玲央にも、そのまま返して聞いてみる。
「玲央は食べたい物ないの?」
「オレ、ほんとに何でもいい」
「ほんとに?」
もう一度聞くと、玲央がクスクス笑う。
「何かあるのか? 何でもいいよ、言ってみな?」
「……うん。さっき、通ってくる時道にあったんだけどさ、なんか、玲央には似合わないなーっていう食べ物で……」
そう言うと、玲央は、前を向いたまま、可笑しそうに笑う。
「何、オレに似合わない食べものって」
「……あのね。お好み焼きが、食べたい」
「ああ。なんかさっき見かけたな。いいよ、行こう」
「いいの?」
「ああ」
玲央はクスクス笑いながら頷いてくれる。
「でもなんか、玲央には、やっぱりあんまり似合わないね」
「――――……まあ。あんまり食べた事ないかも……」
「えっ!!」
ぱっと、玲央を見つめてしまう。
「あんまり食べた事ないの?」
「――――……そんなに驚く?」
クックッと笑いながら。玲央は、前を見つめてる。
「なんか学園祭みたいなので食べた……ような?」
「お好み焼き屋さん、行かないの?」
「……行かないな。あー。一回、鉄板焼き屋みたいな所で、焼いてもらったような記憶はあるような……」
「……お好み焼きの味、浮かぶ?」
「ああ、それは浮かぶ。食べた事はあるから」
「え、美味しい?」
「ああ」
クスクス笑いながら、玲央が頷く。
「ただ、自分で焼くような店に入った事、無いな。だから、オレ、焼けないかも?」
「料理、出来るのに」
「んー……あれが、無い。家に。ホットプレートって奴」
…………玲央のお家って。
ホットプレートを囲むようなお家では、無い、て事??
あれかな、テレビで見るみたいな、向こうとこっちがものすごい遠い、ながーいテーブルの端と端で食べるとか??
「……なんか変なこと、考えてる? 優月。面白い顔してる」
信号で止まった所で玲央がオレを見て、ぷ、と笑ってる。
「玲央のお家のご飯て、あの、ながーーーーいテーブルの端と端とか……?」
言ってる途中で、玲央がクスクス笑い出した。
「違うよ。まあ……広くはあるから、テーブル囲んだりしなかったというか。料理人が作って運んでくるから、そういうのは無かったっていうだけ」
「そうなんだ……」
うーん、色々住む世界がちがいそう。
なんて一瞬思ったけど。
「優月が焼き方教えてくれる?」
そう言われて、え、と喜んでしまう。
――――……オレが玲央に教えられることとか。
正直そんなに無い気がして。うん、と頷いた。
「あ、なんかそういえばさ」
「うん?」
「玲央に教えられること探すって。オレ言ったよね?」
「ああ。あれだろ。オムライスの店、教えてくれた話だろ」
「そうそう! それの話」
玲央、すごい、よく覚えてるー、と喜んでいると。
信号が変わって、玲央が車を走らせ始めた。
「んーでも、さ、玲央」
「うん?」
「ほんとにお好み焼きでいいの? 夕飯」
「ん。焼き方教えてくれるならな?」
笑顔で頷かれて、笑って返しながら、オレは、ふふ、と笑う。
食べものが似合う似合わないとか、普通思わない気がするけど。
なんか色んな意味で。
――――……やっぱり玲央には、お好み焼きって、なんか似合わないなーって、思ってしまって、可笑しい。
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