468 / 856

第474話◇

 帰る途中の、お好み焼き屋さんの駐車場にとめて、車を降りる。  ぴ、とリモコンで鍵をかけた玲央の隣に並ぶ。  止めた車をふと振り返って。なんとなく、お好み焼き屋さんに似合わないような、とまた思う。 「いこ、優月」  そっと腕に触れられて、引き寄せられる。なんかその引き寄せ方がスムーズすぎて。何でこんなにカッコいいかなと、ふと見上げてしまいながら店に近付いて。  引き戸の扉を開けて、中に入ると、いらっしゃいませーと店員さんが現れて、靴箱に靴を入れるように言った。  店員さん、入った瞬間から、めちゃくちゃ玲央を見てる。  ……普通、そんなお客さんの事見ちゃいけないと思うんだけど。  ――――……でも分かる。見ちゃうの。なんて思うと、くす、と笑ってしまう。 「優月?」 「ううん」  何でもないよと首を振る。 「足元、お気をつけて」  言われながら、店員さんについて2階にあがり、席に通された。  掘りごたつみたいになっていて、玲央と向かい合って、足を下に入れて座った。 「鉄板つけますので、気をつけてくださいね」  店員さんはそう言って鉄板に火を入れて、また玲央のことちょっと見ながら、退散していった。 「――――……」  玲央が、ちょっと周りを見回している。 「落ち着かない?」 「そういう訳じゃないけど……」  くす、と玲央が笑う。 「さっき、下でなんで笑ったんだ?」 「……ああ、あの、店員さんがね」 「ん」 「玲央のこと、すっごく見てたから」 「そう?」 「うん。見てたよ」 「――――……オレ優月しか見てなかったからな……」  とか。不意にそんな言葉でオレを固まらせたまま。玲央が、「メニュー見るか」とメニューを開いた。  ……玲央って。  たまにすごく恥ずかしいなあと思う事を真顔で言うから。  もう。……照れちゃうよう。ほんと。 「優月、何が好きなんだ? 好きなの頼んで」  真ん中の鉄板が熱くて一緒には見れないので、もう一冊のメニューを渡される。   「うん……」 「どした?」  割と席は埋まっていて、すぐ隣にもお客さんはいる。  でも、焼いている音や、笑い声で、結構騒がしい。  大丈夫かなと思って、玲央を見て。 「……オレしか見てないとか、言うから……」 「……照れてンの?」  クスクス笑って、玲央がまっすぐオレを見る。 「いきなり、言うんだもん」 「いきなりも何も、そういうの、準備しては言わないだろ」 「そうだけど……」 「店員の子、オレを見てた?」 「見てたよ、すごく、ドキドキしてそうな感じで」 「ふうん……? 気づかなかった」  あの視線に気づかない。  ……こういうのって、他人からの方が気づくのかな。  めちゃくちゃ見てたけどな。  ……ま、いいか。 「玲央、お肉と海鮮とかと、どっちが好き?」 「優月は?」 「とりあえずいつも絶対頼むのは豚肉」 「じゃあそれでいい。あとは?」 「じゃあ、海鮮のミックス玉は?」 「いいよ。優月、鉄板焼き、食べる?」 「うん、食べる」  あれこれ決めて、店員さんを呼んだ。さっきの店員さん。  まためちゃくちゃ、玲央を見ている。注文をうけて、操作する機械を持つ手が震えている。  ――――……あ。もしかして。  ……ただカッコいいから、見てるとかじゃないんじゃ。  何か、声まで震えてる。  玲央もさすがに気づいたのか、ちら、と店員さんを少し見て、オレと目を合わせてくる。  注文を繰り返して、失礼しました、と離れようとする。 「あ」  オレが言うと、店員さんは、え?とオレを振り返った。 「あの……Ankhのファンだったり……?」  違ったらちょっと恥ずかしいので、小さめの声で聞いてみた。  玲央は話しかけたオレを見てから、店員さんの方を見上げてる。 「……はいっ」  こくこくこく。 「あ、やっぱり」  どうりで。めちゃくちゃ見てたし。震えてたし。  すごく納得。   「玲央、ファンだって……」  玲央に言うと、オレを見て、ふ、と笑う。  その笑顔のまま、店員さんを見上げて、「ありがとうね」と言った瞬間。  ボロボロ涙をあふれさせた。  わー。泣いちゃったー!  オレは1人でこっちで狼狽えていたのだけれど。  玲央はさすがで、全然狼狽えない。  慰めてあげて。でも、余計泣いちゃったけど。何とか持ち直したみたいで、復活して戻っていった。 「……良く分かったな? Ankhのファンとか」 「入った時から、すごい見てたから。ただ、カッコいいなーっていう見方とは、ちょっと違うかなって思って……」 「ふうん」  クスクス笑って、玲央はオレを見て苦笑い。 「今の子が料理もってくんのかな」 「んーどうだろうね……??」  クスクス笑ってしまう。   「玲央はほんとに有名人なんだね」 「有名人……」  何がおかしいのか、クスクス笑われる。   

ともだちにシェアしよう!