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第478話◇

「あ。そうだ。忘れてた」  不意に玲央が、そんな事を言って、オレを見つめた。 「うん?」  忘れてたって何だろ、と、玲央を見つめ返すと。 「夏休みさ。地方のライブハウスを回ってみないかって話になってさ」 「うん」 「地方にも来てほしいって声は、前からあったからさ」 「うんうん」 「色んな地方のライブハウスで歌って、その地方で泊まったり遊んだり」 「わー、楽しそうだね、いいねえ」  うんうん、と聞いていると。 「優月も行けるか?」 「ん? 行けるって??」 「優月も、一緒に」 「……え??」  ぽかん、としてしまう。  だって、ライブって、お仕事みたいなものだよね。   「オレ行ったら、邪魔じゃない?」 「何で?」  今度は玲央の方が、きょとんとした。 「だって、ライブって……遊びに行くわけじゃないでしょ? オレ、フラフラしてたら邪魔じゃない?」 「優月が居て邪魔なんて思う奴居ないと思うけど……」  玲央は、クスクス笑って言うけど。  良いのか分からなくて、返事が出来ないでいると。  すると、玲央がふ、と笑って。 「あのな、この話がどっから始まったかっていうと」 「うん」 「優月と、夏休み、色んな事しようって話したろ? それを勇紀達に話したらさ」 「うん」 「そこから、ライブしながら各地回って、ライブ以外は泊ったり遊んだりしようっていう提案になった訳」 「――――……」 「だから、最初から、優月と遊ぶっていう話から始まってんだよ」 「……そう、なの?」 「だからこれは、優月がOKなら、それでいいって話だから」  玲央の言葉を自分の中で考えて。  ひとめぐり。 「――――……え、じゃあほんとに、良いの?」 「良いのって言うか、一緒に行ってくれないと、困る」 「困る?」 「元が、優月と思い出作ろうっつー話だし」  そこまで言われると。  あ、じゃあほんとにいいんだ、と思えて。 「行く行く。行きたい」  玲央達と、色んな所、回れるとか。めちゃくちゃ嬉しい。 「それってさ、オレさ、そのライブ、見ていいの?」 「当たり前だろ。見ないでどこに居るつもりだよ」  玲央に、笑われてしまった。  ……確かに。 「行く。絶対行く」 「OK。皆に伝える」  めちゃくちゃワクワクする。  嬉しいな。早く夏休みにならないかななんて、思っていたら。  ふと微笑んだ玲央の手が、伸びてきて。  オレの頭、くしゃ、と撫でた。一瞬だけ。   「――――……」  目立つの分かってるのかな。  こんな、一瞬撫でる、とか。  素知らぬ顔で、お好み焼き、食べてるけど。  何となく、玲央の事見てると。 「……ちょっと撫でたくなっただけ。でも優月周り気にしてるから。少しな?」  クスクス笑って、玲央が小声で言ってくる。 「嬉しそうだから。優月」 「うん。だって、嬉しいよ。もう。明日から夏休みでも良いなあーて」  玲央がまた、優しい瞳で、オレを見つめてくる。 「……玲央、ありがと。すっごく、楽しみ」 「――――……つか、オレも楽しみだけど」 「ライブも。めちゃくちゃ楽しみ! また皆カッコいいの、見れるんだ」 「Ankh好き?」 「好き」 「そっか」  玲央が、嬉しそうに笑うから。  何だか、余計に、嬉しくなる。  

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