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第479話◇
食事を終えて、ごちそうさま、と口にしてから、玲央に視線を向けた。
「玲央、初のお好み焼き屋さん、どうだった?」
「ん、なんか新鮮。また来よ。あいつらも連れて」
「うん」
……ていうか、新鮮って……。
その言葉、よく考えると、何だか可笑しくて、クスクス笑ってしまう。
聞いた事ないけど、お好み焼き屋さんて、皆、行った事あると思ってた。違うのかな。どうなんだろ……。オレ、家族皆好きだし、友達とも結構行ってるけど。
新鮮、か……。
「オレも、玲央といると、初めての事いっぱいあるよ」
「――――……ん」
玲央もオレを見て、ふ、と笑う。
「楽しいなと思う」
何だか嬉しくて、そう言う。
「ライブとかも――――……縁なかったから。ほんとすごいなーと……」
「これから飽きる位見るから」
「飽きないよー」
即答してから、あ、と気付く。
「もし、皆でここに来たら、さっきの子、もっと号泣かなあ」
「あー……どうだろうな」
そう言いながらも、玲央は苦笑してる。
「人に会って、嬉しくて泣いちゃうとか……そんな場面、初めて見たかも」
「ああ。まあ、そうだよな」
「玲央は何回もある?」
「……まあたまにあるけど……でもあんなにボロボロ泣くのはないかも。喜んで涙ぐむ位なら」
「良くあるの?」
「……んー、ある、かな」
「そうなんだ。すごいね。 あ、だからか。さっきも対応、慣れてる感じだった。すごい泣いちゃうから、オレが慌ててたよ」
クスクス笑って、オレを見てる玲央に、ふと気づく。
「レジだけさせてって言ってたね」
「だな」
「きっとまだかなーってドキドキしてるんだろうね」
想像すると、なんか可愛いな。
ふ、と自然と微笑んでしまう。
「もう行くか?」
「うん。行こっか」
「あ、ちょっと待って、優月」
「うん。何?」
財布から一枚、小さな紙を取り出した。
「――――……Ankhの名刺」
玲央がふ、と笑って。テーブルに置いてあるアンケート用紙の横のボールペンで、何かを書いた。
「サイン?」
「そ」
「わー。喜ぶよー。……ていうか、大号泣かも」
「まあ、下の靴箱のとこなら」
クスクス笑って玲央はボールペンを片付けて、立ち上がった。
で。どうなったかというと。
せっかく泣き止んで、笑顔で会計をしてくれたその子は。
良ければ、と玲央が渡したものを受け取って。
予想以上の号泣。一生大切にしますとか言ってて。
玲央に、そこまでのものじゃ全然ない、と、苦笑させてた。
絶対泣くだろうと思ったのか、お店の人達が脇に居たので、フォローに入ってきて、ありがとうございましたと、送り出された。
引き戸が勝手に閉まって、店と隔絶されてから。
「――――……思ってたより、もっと泣いちゃってた」
言いながら、玲央を見上げると。
「やめといた方が良かったかな?」
と苦笑いの玲央。
「ううん。一生大事にするって言ってたし。良かったんじゃない?」
そう言うと、玲央も笑いながら、オレを見て。「かえろ」と歩き出す。
「やっぱりオレ、すごい人と居る気がする」
「まだまだ、狭い範囲で人気あるだけだよ」
「それでも十分すごいと思うよ。ほんとにメジャーデビューしたら……すごそうだなぁ」
あんまり詳しく知らないけど、なんだか、ものすごーく大きい所でコンサートとかしてる玲央達が、頭に浮かぶ。
何だか、それもほんとに似合うなあ。と思う。
「……何考えてんの?」
「え。あ。――――……玲央達が、すごいでっかい所で、コンサートしてる
イメージが浮かんでた」
「ああ……」
ぷ、と笑う。
「――――……今位でも良い気がすんだけどな」
「……ん。玲央達が皆で決めれば良いと思う」
「とりあえず、夏、ライブ巡りながら、色々話すかな」
「うん」
いつかは結論だすんだろうなあ。
テレビとかで、玲央達見たい気もするけど。
……遠い遠い世界の人になりそうな気も、するような。
「――――……」
車に乗って、助手席でシートベルトをしていたら。
「優月」
そっと引かれて、キスされた。
「――――……玲央?」
「何か黙ってるから。どした?」
頬に触れられる。
「……あーと…………玲央が遠くなりそう。て、ごめん、ちょっと思った」
そう言ったら。玲央は、一瞬黙って。それから、ふわ、と笑った。
「オレを知る奴が増えたって、オレが居てほしい奴は、変わんねーから」
「――――……」
「……つか、優月がそんな事言うの、珍しい。はは。かわい」
「……可愛い?」
「可愛いよ。……そう思ったら寂しくなったんだろ?」
よしよし、と撫でられて。
もう一度、優しく、キスされた。
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