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第480話◇
「玲央」
「ん……?」
「……ありがとね」
「――――……礼言うとこじゃないんだよな」
くす、と笑う玲央に、頭をくしゃくしゃに撫でられた。
「帰るよ」
「うん」
オレが頷くと、玲央は車を発進させた。
玲央が音楽を掛ける。
さっきまで聞いてたのが洋楽だったから、そのまま引き続き。
オレは洋楽は全然聞かなくて、分からない。なんか、カッコいいな、位。
「……玲央って、この歌とか、歌えるの?」
「ん」
「そうなんだー。カッコいいよね、玲央って」
「――――……洋楽歌える奴はたくさん居るけど」
くす、と笑う玲央に、ぷるぷる首を振ってしまう。
「玲央が一番カッコいいと思う」
「――――……」
「オレもね、さっきの子と同じで、玲央のファンなんだよね。歌ってる所、すごくカッコいいし」
「Ankhの?」
「Ankhの、玲央の、ファン。あ、もちろん皆も好きだから、Ankhのファンなんだけど」
「――――……ん」
「玲央はオレと付き合ってくれてる、けど……オレは、ファンでもあるんだよね」
「ファンか……」
玲央は、前を見つめたままで、クスクス笑う。
「なんかさ、ファンになってる人と付き合えるって。普通無いよね。すごいコトな気がするよね」
ほんと、普通無いと思う。しかもこんなに、大好きな人と。
「オレ、玲央と居るために、全部のラッキーを使ってるかも」
何だか本気でそう思うし、もうそうだとしても、それで良い気がして。
ふふ、と笑ってしまうと、玲央も、ふ、と笑んだ。
「これからずーっと一緒だけど。運ずっと使いきっていくのか?」
「……いればいるほど、使っちゃうかも?」
「なんだ、それ」
玲央はおかしそうに笑って。
「つーかさ、優月」
「ん?」
「オレも、優月のファンだから」
「え? なんで?」
「優月のファン、たくさん居そうだしな。……オレの方が、運使ってそうな気がする」
「――――……??」
オレのファンって、なんだろ。
全く、意味が分からないまま、玲央を見てると。玲央はなんだかとっても楽しそうに、音楽に合わせて、鼻歌歌ってる。
なんだかとっても、ご機嫌みたいだし。
玲央の鼻歌、貴重。
なんて思って、邪魔しないで聞いておこうと、オレは、黙った。
しばらく、玲央の鼻歌聞きながら、窓の外、眺めていたら。
車が、止まった。赤になった所、みたい。
「優月」
手招きされて、少し玲央に寄ったら。
首にかかった手に引き寄せられて、キスされた。
「――――……玲央……」
「どー考えても、オレの方が、好きだと思うぞ」
「――――……」
「だから、オレのがラッキーってことで」
クスと笑って、オレの頬に、キスしてくる。
何言ってるんだろ。
どー考えたって、絶対、逆だと思うのに。
「……早く帰って、触りたい」
すり、と頬を撫でて、玲央はオレから手を離した。
「絶対オレの方が、お前に触りたくてしょーがないと思うんだよなー」
ハンドルを握り直しながら、ふ、と斜めにオレを見つめる。
優しく、細められる瞳に、どき、と胸が弾んで。
もう。
もう、なんか。
…………触って欲しいのも。オレのが強いんじゃないかなって、思う。
学校に居たって、玲央の事、思い出して。
妖しい事も、散々思い出して、授業、頭に入ってこなかったり。
もうほんと。いっぱいだし。
でもなんか、それは言いにくいけど。
――――……絶対、オレの方が、玲央の事好きなのにな。
そんな事思いながら、また聞こえてくる玲央の。
今度は小さな歌声。英語の。
なんか。
すごく贅沢な気がする。
玲央の助手席で、玲央が洋楽、歌うのBGMにしながら。
玲央の事見れるとか。
もう、死ぬほど贅沢なので、オレは、余計な音は発さないように、口を噤んだ。
そこから帰り道は、ずっと、ドキドキ、玲央の一人コンサートの観客気分。
……すっごく、幸せ。
(2022/5/23)
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