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第482話◇

 マンションの駐車場に到着すると、トランクから優月の荷物を持って、エレベーターのボタンを押した。 「玲央?」 「ん」 「オレ、持てるよ?」  そう言われて、ん、と優月を見下ろす。 「分かってるけど」 「うん」  見上げられて、くす、と笑ってしまう。 「重くないし。それより早く帰ろ」  オレがそう言うと、特にそれ以上は何も言わず、優月は頷いた。 「ありがと」   それだけ言って、オレの隣に立つ。 「な、優月」 「ん?」 「男なの分かってるし、女よりは力あるのも分かってる」 「うん」 「でも甘えといて」 「……甘える? って……いいの?」 「ん」  ふふ、と笑って頷くと、優月は到着したエレベーターに先に乗り込んで、ボタンを押す。 「でもそれ言うとさ」  閉まるボタンを押して二人になると、優月はオレのすぐ横でまっすぐ見つめてくる。 「でも……オレも――――……玲央、甘えてほしいかも……」  ――――……。  優月の、何だか恥ずかしそうな表情に。  可愛いなと思いつつも。  オレが甘える、という、予想外の言葉に。  何だか、瞬きばかりしてしまう。  オレと見つめ合いながら、優月は、えーと……と呟いて、その内、苦笑い。  そこで、エレベーターが、部屋の階に到着した。 「玲央は、甘えるっていう選択肢が……もしかして、全く無いの?」  エレベーターを降りながら、優月がオレを振り返って、クスクス笑いながら見上げてくる。 「無いかもな……」 「そうなんだ……そっか……」  うーん、そっか、と何度も言いながら、優月が隣をトコトコと歩いてる。  ……可愛い。  部屋のドアを開けると、優月が「ありがと」と中に入って。  くる、と振り返った。 「玲央も、オレに何か――――……なんでもいいから、甘えられる事、探して?」  優月は、オレを見上げて、すごく楽しそうに微笑む。  荷物を玄関に置いてから、優月を見つめ返して。 「――――……」  甘える、か。  んー、と、考えて。  優月を自分の方に引き寄せた。 「じゃあ、お前は……」 「うん?」 「オレにくっついてて?」 「くっつく?」 「なるべく近くにいて?」 「……なにそれ。家で?」  ふふ、と優月が笑う。 「そう。家で。お前が近くに居てくれれば、それでいいよ」 「それ、甘えてる事になる?」 「なる。多分」 「多分って……」  優月がクスクス笑ってる。 「オレはもっと、何かしてあげるとか……助けるとか……?」 「でもオレ、マジでくっついててくれれば、良いんだけど」  優月は、オレを見上げて、ぷ、と笑った。 「じゃあ、それはする。……もうちょっとできそうな事ないか、考えとくね?」  ん、と二人で何となく納得して。  とりあえず家に入る事にして、靴を脱いだ。  と、そこで、ふと。 「……なんかさ。優月」 「うん」 「なんか、匂う」  オレが言うと、優月は、あー、と言いながら笑った。 「お好み焼きの? 匂いかな?」 「ああ、それなのか。――――……つか、かなり、匂うな」 「どれどれ??」  なんて言いながら、優月が近づいてくる。  とっさに、優月の頭、おさえてしまう。 「つか、嗅ぐなよ」 「えっなんで?」 「くさいって」 「でも、オレも同じ匂いだってば」 「……それでも、嗅ぐなって。こら」  ひしっとくっついて来ようとする優月を、今だけはちょっと、離そうと藻掻いていると。優月が、クスクス笑い出した。 「……玲央に、こらって、言われちゃった」  とか言いながら。  何だかちょっと、喜んでるように見える。

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