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第483話◇
「ほら。こっち向いて」
「あ、うん」
もうめちゃくちゃ匂うので、荷物もそのままに、バスルームに来た。
服は全部洗濯機に突っ込んで、洗剤を入れて回した。
お湯を浴びてから、優月の頭を洗い始める。
シャンプーの良い香り。
「あんな匂い、玲央についてるのって新鮮……今まで無かった?」
クスクス優月が笑う。新鮮ってと、苦笑いしか浮かばない。
「あれ? 鉄板焼き屋さん行ったって言ってなかったっけ?」
「……あん時は多分ついてないな。煙がこっちに来ないようになってたのかも。鉄板からは少し離れてたし」
「そっか。やっぱりちょっと違うのかな……焼肉屋さんとかは?」
「そういえば、あんまり行かないな」
「……そうなんだー。多分一緒。ああやって焼いて帰ると、匂うよ?」
クスクス笑う優月。
「玲央って、どんなお店に行ってたの?」
「……とりあえず鉄板とかで焼くようなお店はあんま行った事ないな……」
優月の髪、もしゃもしゃと泡立てて。
「かゆいとこは?」
「ないー」
「んじゃ流して?」
「うん」
優月がシャンプーを流してる間に、自分の髪の毛を洗い始める。
「玲央達はオシャレなお店に居そうだもんね」
シャワーを止めて、優月がクスクス笑う。
「玲央、座って? 洗うから」
「ん」
優月が見上げてきて言うので、椅子に座ると、後ろに立った優月が髪に触れてくる。
「楽しかった? お好み焼き屋さん」
「そうだな。楽しそうな優月見れたし」
「オレ楽しそうだった?」
「すげー楽しそうだった」
言うと、後ろでクスクス笑ってる。
「玲央が慣れない感じで、ちょっと可愛かったから、余計楽しかったのかも」
ふふ、と笑いながらそんな事を言ってる。
「――――……あ。なんか思い出しちゃった」
「ん?」
「泣いてた子の事」
「ああ……」
「きっとバイト終わったら、めちゃくちゃ友達とかに言いまわってるんじゃないのかなあ、とか。想像しちゃうね」
「どうだろうな?」
「絶対言ってるよー。あ。玲央、かゆいとこは?」
「んー。右側」
「はーい」
楽しそうに返事をして、優月がシャンプーを続ける。
……なんだかな……。
――――……可愛いなあ。触り方。
優しい、手。
別にかゆかった訳じゃないけど、続けて欲しくて言ったんだけど。
なんか一生懸命洗ってて。
しばらく、続けてもらう。
「……もーいいよ。ありがと」
「ん。下、向いて?」
「ん」
緩いシャワーで流してくれる。
「……もうこれで玲央から匂い、取れちゃったよね。残念……」
「何、残念って」
ふ、と笑ってしまいながら、泡が流れるのを待って、顔を上げる。
「――――……」
髪を掻き上げながら、優月を見上げる。
――――……見て分かる位、明らかに、ぴたっと、優月が固まった。
「ん?」
見上げて、問うと。
固まってた、優月が、少し苦笑い。
「――――……玲央って」
「うん」
「……いっつも、ずーっと、カッコいいんだけど」
「……ん?」
何を言うんだろうと笑ってしまいながら、見上げていると。
「――――……濡れてるとなんか……んー。……そのまま、絵にできそう……」
ぽけー、とした顔で、じー、と見つめられて。
なんだかな……。
よく分からない感想だけど、とりあえず、可愛い事は確か。
「んー……水も|滴る《したたる》的な?」
そう聞いてみると、優月は、それそれ、とめちゃくちゃ笑顔で頷く。
「オレ、玲央とお風呂入る度に、いっつもそれ思ってて」
嬉しそうに笑いながら、そんな風に言うのが、可愛すぎて。
優月の腕、掴んで、引き寄せて。
柔らかく、唇を重ねた。
いつもは大抵、上から重ねるから、下からするのは少し違う。
上にある優月の瞳は、閉じずに、じっとオレを見つめてて。
ふ、と緩んで細められた。
しばらく触れて、離す。
「――――……玲央見下ろすの……ドキドキする」
とか。 ……ほんと、可愛い。
「体洗って、早く出よ」
「早く?」
「そ。早く」
「うん?」
不思議そうに見下ろしてくる優月の頬に触れる。
「風呂だと優月のぼせるし。――――……出てから触りたいから。早くって言ってる」
クスッと笑って伝えると。あ、と言って、かあっと赤くなる。
――――……なんかもう。
いますぐめちゃくちゃにしたい位、可愛いよなあ……。
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