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第490話◇

「準備出来た?」 「うん、できたー」  朝の支度を終えて、玄関で優月と靴を履く。 「香水、つけた?」 「あ。つけてない」 「いいよ、別に。聞いただけ」  部屋に戻ろうとした優月の手を掴んで、止める。 「香水付ける習慣なくて……ごめんね」 「いいよ。優月の匂い好きだし」 「――――……」  部屋を出ながら、そんな会話。  オレの言葉に、優月は、ん?と見上げてくる。 「オレの匂いって、なに??」 「んー?……んー、一言で言うなら……」 「う……うん。言う、なら?」 「いい匂い」 「――――……」  エレベーターまで歩きながら、優月が何だか不思議そうにオレを見上げている。 「……玲央のシャンプーの、匂いかな」 「いや? 会った時から、優月の匂い」 「……く、くさ……」 「臭くはねえよ、イイ匂いって言ってるじゃんか」  面白い顔で見上げてくるから、遮ってそう言う。  エレベーターの中で、優月の髪に触れて撫でる。 「……玲央は、ほんとに良い匂い、するけどね」  ふふ、と笑って、優月がオレを見上げてくる。 「いつも同じのじゃないけどな」 「んー……よくわかんない。違う気もするし。でも、いつでもいい匂いがする」 「――――……相性いいんじゃねえ?」 「ん?」 「相性いいと、イイ匂いに感じるのかもと、思う」 「……」  うんうん、と優月が頷いて、ふふ、と笑んでるのが可愛くて。  最後、と、キスした。 「――――……エレベーターってさ、カメラ、ある、よね?」 「まあ。でも、今、オレに隠れて、優月はうつってないし」  後ろのカメラを振り返りながら言うと。 「でも、キス、してるのは分かるような……」 「大丈夫。キス位、挨拶の国もあるし、気にすんな」 「――――……」  ここは日本だよー、と優月の目が言ってるが。  すぐクスクス笑い出して。オレを見上げてくる。 「――――……この角度が、好きなんだけど、オレ」 「ん?」 「ちょっと下からお前が見上げてくるの。可愛すぎる」 「――――……」  優月はきょとん、として、オレのセリフを聞き終えると。  一階についたエレベーターから出て、マンションのエントランスを進みながら。 「……オレ、背、伸びちゃったら嫌?」  そんな事聞きながら、でもニコニコ笑ってる。  背ぇ伸びたら?  ……ちょっと考える。   「――――……別に。全然、嫌じゃないな」 「もう、1年位ほとんど伸びてないから、伸びないとは思うんだけど」  優月はクスクス笑って、  オレを見つめて。 「伸びても、好き?」 「当たり前――――……つか、オレ、優月なら何でもいいんだなって気がしてきた」 「――――……」 「背がそのままでも。伸びても」  そっか、別になんでも可愛いのか。  なんて、朝からもうずっと、何度可愛いと思ってるのか、自分に呆れながら言っていると。 「オレが、すっごい、もちもちに太ったら??」 「――――……すっごいもちもち?」 「そう、なんか、もう、ぽよんぽよんな感じで」 「ぽよんぽよんて……」  じー、と優月を見つめて、想像しようとしてみるのだけれど、なんだかいまいち想像できない。 「玲央は、痩せてる人が好きなの?」 「んー……あんま考えた事がなかった」 「そっか」 「……ちょっと想像してみる」 「え、何を?」 「優月がぽよんぽよんしてるとこ」 「え゛え゛っ、いいよ、しなくて」  可笑しそうに笑って、優月の手がオレの腕にかかる。  ――――……外で優月から触れてくる事って、そういえばそんなに無いなと気付いて。  こんな接触が嬉しいとか。意味が分からないなと自分に対して思いながら。 「……優月なら何でもいーかもな。ぽよぽよしてても気持ちよさそうだし」 「……う、うん。あり、がと……?……あー…と……でも一応、健康的な範囲では、行こうと思ってる、かな……?」 「まあ、そーだな。長生きしてほしいし」 「――――……玲央……」  優月はもう、めちゃくちゃ楽しそうに笑ってる。  

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