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第491話◇

 学校が見えてきた。もうすぐ優月と別れる。  こんだけずっと居るのに、そんな事思うとか。何だかなと、思ってしまう。 「あー……今日優月、クラス会だよな?」 「うん。さっき連絡来てて、お店予約したって」 「どこ?」 「今回も駅前の料理屋さん。2階が全部座敷で貸切に出来るの」  ふーん、と頷いていると。 「玲央は、夕飯どうするの?」 「あー……誰かと食べるかも」  ニコニコしながら、優月は、分かった、と言う。 「――――……何、そんな笑ってんの?」  オレが不思議に思って、優月に聞くと。 「……なんかさ」 「ん」 「普通は、人の夕飯なんて聞かないでしょ?」 「……ん?」 「ずっと一緒に居るから、夕飯どーする?とか。聞くようになってるんだなーと思うと。なんか、嬉しいなーと思って」 「――――……」  多分、まあ、それはそうなんだろうと思う。  一緒っていう前提があるから、別になって、どうするか、自然と聞いてる。  ――――……事実としてそうなんだけど。  それを敢えて、言葉にされると。  しかも、嬉しい、とか。そんなニコニコされると。 「――――……押し倒したい」  思わず漏れた、言葉に。  自分でも言ってから、少し驚いたけれど。 「えっ?」  と、めちゃくちゃびっくりした顔で、見上げられる。  聞き違いかな??とばかりの、でっかい瞳。 「あーごめん。本音が……」 「…………」  聞き違いじゃなかったのかなと、不思議そうに、さらにでっかくなる瞳。  あーもー……。なんか考えること、全部伝わってくる気がする。  吹き出してしまった。  可愛すぎて。 「……ごめん、優月がすげー可愛くて、もーキスして、そのまま押し倒したくなった。今日は夜まで会えないし。長いなーと思って」  クッと笑いながら、優月の肩に手をかけて、引き寄せながらそう言うと。優月がかあっと赤くなって、瞬きを繰り返しながらオレを見つめている。 「あの……オレ、お昼にクロのところに行くよ……?」 「ん、ならオレも行く」  即答しながら、肩を組まれて至近距離で恥ずかしそうな優月を離す。  ……今さら近い位でこんなに真っ赤とか。ほんとに可愛い……。 「お昼食べて、コンビニ行ってから行くね?」 「ん? オレも行くよ。コンビニ。食べ終わりそうな所で連絡して」 「分かった」  嬉しそうに、頷く優月。 「――――……」 「……?」  頬に触れて、すり、と撫でながら手を離すと、優月が不思議そうに見つめてくる。 「……なるべく早く、行く」 「――――……」  自然と漏れた言葉に、またまたオレも自分で驚いたけど、優月もきょとんした。 「……わーもう、なんか」 「……」 「……そんなにいっぱい、一緒に居たい、みたいなこと、言われると……」 「――――……」 「離れたくなくなっちゃうんだけどー……」  また、ぷーー、と膨れてる。  この顔、朝もしてたな。はは。かわい。  キスしたいが。  さすがに、もうすぐ大学の正門前。 「オレこのまま部室行く。優月向こうだろ?」 「うん。じゃあまたあとでね」  優月は笑顔でそう言って、一歩、進んでから。  くる、と振り返る。   「……玲央?」 「ん?」 「ありがと」 「……何が?」  そう聞くと。優月は、ふわ、と微笑んで。 「一緒に居たいって、いっぱい、言ってくれて」 「――――……」  咄嗟に、返事が出来ないでいるオレに、じゃあねー!とニコニコ笑顔で手を振ると、足早に離れて行った。  何となく、その姿が見えなくなるまで、見送る。  ……ありがと、だって。  一緒に居たいって、いっぱい、言ってくれて、ありがと。って。  ダメだ。  もー、連れ戻して、そのまま家に帰りたい。とか。  ダメだな、これ。  重症。  ていうか。  ――――……恥ずかしくねーのかな。ああいうの、言うのって。  エロイ事言うより、よっぽど恥ずかしい気がするんだけど。

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