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第492話◇

 言われて、かなり恥ずかしかったセリフを思い出しながら、自販機でお茶を買って、部室に到着。  ここで朝過ごすのも、なんか慣れてきたな。  ……優月って、ほとんど一限とってるよな。教職取ってるから、コマ数多いのか。  ――――……つか。  優月が、先生、か。  結構最初の頃に聞いた時は、確か子供の先生なら向いてそうだけど、中高とかだとなめられそう、とか思った記憶がある。  でもなんとなく今は。  中高とかでも平気そうな気がする。  芯があって。優しいけど、ブレねーし。  嘘は無いし、まっすぐに人と向かうから――――……良い先生になって、頼られそう。なんて思う。  ……でもなんか、頼られ過ぎて、忙しすぎて、家に帰ってこなそう。  とか。  そこまで考えて、はっと気付く。  ……まだまだ何年も先の事なのに。  ――――……家に帰ってこなそうとか。  自分が、その時も優月と居る前提で、ものを考えてる事に気付いて、思考停止。今までにそんな先の、誰かとの未来を考えるとか、全くなかったから。考えている自分に気づいて、驚いた。 「――――……」  ペットボトルの蓋を開けて一口飲んで。  鞄からイヤホンを出して、音楽をかける。  テーブルに肩肘をついて、顎をのせる。 「――――……」  優月に会うまでの自分と、今の自分が、ことごとく別人過ぎて、戸惑うコトも多い。考えた事も無かった事を考えて、言わなかったセリフが勝手に口から洩れて――――……。  つか。そもそも、オレ、優月にベタベタ触りすぎだしな。  なんだろうほんとに。  ……引力が強すぎる……みたいな。  そこまで考えて、優月の顔ばかり浮かんできている事に対しても、つい苦笑い。  頬杖を外して、そのまま腕を上げて、背伸びをした。  その時、不意にドアが開いて、勇紀が入ってきた。 「あ、やっぱり居た。はよ、玲央」  勇紀はそう言って、オレの目の前に座る。  オレが音楽を止めて、イヤホンを外すと、勇紀が楽しそうにオレを覗き込んでくる。 「なあ。昨日さ、お好み焼き食べにいったでしょ」 「――――……」  楽しそうに言われるそのセリフに、しばし瞬き。  優月に聞いたのか? 「何で知ってるのって思ってるだろ」  クスクス笑って言う。……その言い方は、優月情報じゃなさそうな感じだが。 「見かけたか?」  駐車場にいる所を通りかかったとか?  勇紀は違うと首を振りながら、スマホを取り出して、少し操作してからオレに画面を向けてきた。  見覚えのある、写真。名刺にサイン。 「――――……これ……」  昨日、店員の子に、書いたやつか。 「これ、朝、雪ちゃんがファンの子の投稿を、流してた」 「ああ……なるほど」  少し、文字を読んでみると。  神に出会いました。一緒に居た彼も、神。  と書いてあって、キラキラやハートの絵文字で、これでもかと飾られていた。 「――――……昨夜、優月の希望でお好み焼きの店に行ったんだよ」 「うん。そうだろうなと思った。玲央、行かないだろ、普段」 「初」 「だよな~? だって、似合わないもんな、玲央。優月すげー、玲央をお好み焼きに連れていけるって」  ぷはは、と笑う勇紀。

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