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第493話◇

「勇紀は行くのか、お好み焼きとか」 「オレ、好きだから、お好み焼きー」 「あ、そう」  言われてみれば、あの雰囲気、こいつは好きそうだ。 「なー玲央。お好み焼き屋行くとさー、すっごい匂いついて帰らない?」 「ああ。すごいな、あれ」  言った瞬間、勇紀が、テーブルに突っ伏した。 「?」  何だ?と思ったら、震えてる。  ――――……と思ったら、顔上げて、めちゃくちゃ笑い出す。ヒーヒー言いながら、「もー、ほんと。SNSに流していい?」とか言ってくる。 「何をだよ」  そう聞くと、決まってんじゃん、と笑う。 「玲央がお好み焼きの匂いをさせてた件って。恋人にせがまれて初体験、みたいな感じで―」 「……」  ……無視しよう。  冷めた目で見てても全くめげず、涙目で笑ってる。 「……なんかさぁ。優月と居ると、玲央が、人間ぽくなるね」 「――――……お好み焼きの匂いついてると、人間なのかよ」 「いや、そうじゃなくて。なんて言うんだろ……」  やっと笑いを収めて、んー、と考えた後に。 「なんか今までの玲央ってさ、ドラマかなんかの、王子様キャラみたいなのを地でいってたっていうか。別に、感情が無かったとか思ってないよ。オレ、前の玲央も好きだし。じゃなきゃ一緒になんて居ないし」 「――――……」  こういう返答に困る事をさらっというのは、ちょっと優月に似ている。  だから仲良いのかな、と思ったりしていると。 「ほら、玲央の書く詞ってさ、玲央っぽくなかった訳。玲央のイメージじゃないというか、玲央がこんな詞書くの意外、みたいな。……まあ、オレらは何となく、玲央の中身はこっちなんだろうなーって思ってたけどさ。だって、嘘で詞なんか書けないじゃん? ――――……でもなんか、優月と会ってから、外も、中身に合って来た感じがすんだよね」 「――――……」 「自分で思わない?」 「……そんな風に思ってなかった」 「まあそうだろうけど。 言われたら、そうかもって、思わない?」  クスクス笑いながら勇紀が言う。 「お前は、よく、お好み焼きの話から、そこまで飛躍できるよな……」  そう言うと。勇紀は、あは、と笑ってから。 「だって、前の玲央なら、お好み焼きいこーとか言ったら、焼くのとかめんどくさい、て言いそうだったもん。それがさー、優月が行きたいって言ったら、絶対、即いいよって言ったんでしょ?」 「――――……」  ……どうだっけ。 「絶対すぐオッケイしたはず。で、なんでこんな、名刺にサインなんかすることになったの?」  面白そうに聞いてくる勇紀。 「……案内してくれた店員がAnkhのファンで……先に優月がその子の様子に気づいて、ファンなのかって聞いたら、号泣しちまって」 「へえー」 「結局、泣くのが止められないからとか言って、運んだりは別の店員がしてたんだけど、会計だけさせてくださいって言ってたから……持ってた名刺にサインしただけ――――……なんだけど……こんな名刺、ネットに載せられると逆に恥ずかしいよな……」 「んなことないよ。ファンの子達は、いいなーって羨んでるし」  勇紀がクスクス笑って、オレを見る。 「優月がしてあげたらって言ったの?」 「ん?」 「サイン」 「いや。何となくしただけ」  オレがそう言うと、勇紀は、ふーん、と頷いて。  それから、くすくす笑い出した。 「なんか、玲央、優しくなってるよね」 「――――……そうか?」 「絶対なってる」  勇紀は可笑しそうに笑って、オレを見つめる。    

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