488 / 856
第494話◇
「どうなんだろうね、 優月を可愛がってる間に、自然に優しくなっちゃうって感じなのかなあ?」
「――――……」
「優月が優しいから、合わせようと頑張ってたりする?」
「――――……頑張っては、ねーな」
勇紀が面白そうに言ってるのを、お茶を飲みながら聞いていたが、そこは否定する。
「……よく分かんねえけど」
「うん」
「……昔嫉妬されてたのも、オレも悪かったんだな、とか、思うようになってきた」
「――――……」
勇紀は、オレをじーっと見て、ただ、うんうん、と頷いている。
「何か言えよ」
「いや、だって……あんっなに相手の子達を嫌がってたのに、非を認めるとか……ちょっと感動して……」
「何言ってんの、お前。感動って……」
呆れて笑ってしまうと。
「だって、なんか、玲央が短期間に、すごい変わってくから……」
また、うんうん、と一人で頷いてる。
「やっぱり、優月のおかげなのかな」
「――――……良く分かんねぇな。優月は別に、何が悪かったとか言う訳じゃねえし。責められる訳でもねえし……」
「――――……」
「考え方変えろとかも、言う訳じゃねえんだけど……」
何となく宙をぼんやり見つめながら。優月を思い浮かべる。
「……まあ多分オレって、考え改めろとか言われたら――――……それが正しいと分かってても、素直に聞こうと思えないから」
「――――……だよねえ……」
しみじみ頷かれると、かなりひっかかるが、まあ、でもその傾向が顕著なのは自分でも分かっているので、そこには突っ込まず。
「……あんな感じだから、逆にいいのかもな」
「そうだね。玲央みたいな、かなりひねくれた感じを気取ってる人には、それが全く通用しない、素直―な感じが、あってるんだろうねぇ……」
ひねくれた感じを気取ってる?
そんなつもりはねーけど。
「まあ……いいんじゃない? 100パー、いい傾向だから」
「――――……」
「良かったね、優月と会って」
「――――……」
ふ、と会った時の事が頭に浮かぶ。
ほんと。ただの偶然。
部室まで歩くのもだるくて、目に入ったベンチに座ったんだ。
バンドの練習開始がギリギリで、すぐ立ち上がるつもりだったのに、たまたまクロが近づいてきたから、気紛れに構いたくなって抱き上げた。
そこに、クロを探してる優月が来た。
「……確か最初は面白いのに会った、みたいな事言ってたよなー」
勇紀も同じようなこと、考えていたみたいで、そんな風に言ってくる。
「……ああ。言ってたな」
「そーいやあれ、何が面白かった? それは聞かなかったような気がする」
勇紀が楽しそうにそう言って、オレにまっすぐ視線を向けた。
「なんだっけな――――…… オレ、会って数分でキスしたらすげー驚いてて……」
「……そりゃ驚くっつの」
「……まあ。そーだけど」
「それ、優月が許してなかったら、ただのヤバい人だけどね」
ものすごーく眉を寄せて、勇紀が言う。苦笑いしか浮かばない。
「一応、キスしていい?て聞いてからしたけど」
「それほんとに、優月、良いって言った?」
「……まあ。応じては、くれた」
「――――……」
勇紀が無言になってしまった。
「もー、マジで、汚さないでほしいー……あんなに純粋な感じでかわいーのにーーー」
あーやれやれと、大げさに息を吐いて、オレを少し睨む。
「ほんと、あんま変なこと教えんなよなー」
「……変なことって、どっから?」
「どっからって……」
うーん、と勇紀が考えて。
「――――……なんかオレは、玲央が優月と会って良かったなーとは思う反面さあ」
「ん」
「優月は、可愛い純粋な女の子と、手を繋ぐのも、ドキドキしちゃって、遊園地とかで可愛いもの食べて、観覧車とかで、ほっぺにキス、くらいな? そんなのをしてほしかった気は、する」
「……何だそれ」
「だからー、優月がそんな感じで、デートしてきた、てウキウキ話すのを聞いてみたかった気持ちもあるってこと。 分かんないかなあ??」
「――――……」
…………まあ。
何となく。分かる。が。
「悪いけど、もう、オレのだから。――――……て、別に悪くねえか」
そう言ったら、勇紀が、何だか複雑な顔で、はー、と息を吐きながら、両手で頬杖をついた。
ともだちにシェアしよう!