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第494話◇

「どうなんだろうね、 優月を可愛がってる間に、自然に優しくなっちゃうって感じなのかなあ?」 「――――……」 「優月が優しいから、合わせようと頑張ってたりする?」 「――――……頑張っては、ねーな」  勇紀が面白そうに言ってるのを、お茶を飲みながら聞いていたが、そこは否定する。 「……よく分かんねえけど」 「うん」 「……昔嫉妬されてたのも、オレも悪かったんだな、とか、思うようになってきた」 「――――……」  勇紀は、オレをじーっと見て、ただ、うんうん、と頷いている。 「何か言えよ」 「いや、だって……あんっなに相手の子達を嫌がってたのに、非を認めるとか……ちょっと感動して……」 「何言ってんの、お前。感動って……」  呆れて笑ってしまうと。 「だって、なんか、玲央が短期間に、すごい変わってくから……」  また、うんうん、と一人で頷いてる。 「やっぱり、優月のおかげなのかな」 「――――……良く分かんねぇな。優月は別に、何が悪かったとか言う訳じゃねえし。責められる訳でもねえし……」 「――――……」 「考え方変えろとかも、言う訳じゃねえんだけど……」  何となく宙をぼんやり見つめながら。優月を思い浮かべる。 「……まあ多分オレって、考え改めろとか言われたら――――……それが正しいと分かってても、素直に聞こうと思えないから」 「――――……だよねえ……」  しみじみ頷かれると、かなりひっかかるが、まあ、でもその傾向が顕著なのは自分でも分かっているので、そこには突っ込まず。 「……あんな感じだから、逆にいいのかもな」 「そうだね。玲央みたいな、かなりひねくれた感じを気取ってる人には、それが全く通用しない、素直―な感じが、あってるんだろうねぇ……」  ひねくれた感じを気取ってる?  そんなつもりはねーけど。 「まあ……いいんじゃない? 100パー、いい傾向だから」 「――――……」 「良かったね、優月と会って」 「――――……」  ふ、と会った時の事が頭に浮かぶ。  ほんと。ただの偶然。  部室まで歩くのもだるくて、目に入ったベンチに座ったんだ。  バンドの練習開始がギリギリで、すぐ立ち上がるつもりだったのに、たまたまクロが近づいてきたから、気紛れに構いたくなって抱き上げた。  そこに、クロを探してる優月が来た。 「……確か最初は面白いのに会った、みたいな事言ってたよなー」  勇紀も同じようなこと、考えていたみたいで、そんな風に言ってくる。 「……ああ。言ってたな」 「そーいやあれ、何が面白かった? それは聞かなかったような気がする」  勇紀が楽しそうにそう言って、オレにまっすぐ視線を向けた。 「なんだっけな――――…… オレ、会って数分でキスしたらすげー驚いてて……」 「……そりゃ驚くっつの」 「……まあ。そーだけど」 「それ、優月が許してなかったら、ただのヤバい人だけどね」  ものすごーく眉を寄せて、勇紀が言う。苦笑いしか浮かばない。 「一応、キスしていい?て聞いてからしたけど」 「それほんとに、優月、良いって言った?」 「……まあ。応じては、くれた」 「――――……」  勇紀が無言になってしまった。 「もー、マジで、汚さないでほしいー……あんなに純粋な感じでかわいーのにーーー」  あーやれやれと、大げさに息を吐いて、オレを少し睨む。 「ほんと、あんま変なこと教えんなよなー」 「……変なことって、どっから?」 「どっからって……」  うーん、と勇紀が考えて。 「――――……なんかオレは、玲央が優月と会って良かったなーとは思う反面さあ」 「ん」 「優月は、可愛い純粋な女の子と、手を繋ぐのも、ドキドキしちゃって、遊園地とかで可愛いもの食べて、観覧車とかで、ほっぺにキス、くらいな? そんなのをしてほしかった気は、する」 「……何だそれ」 「だからー、優月がそんな感じで、デートしてきた、てウキウキ話すのを聞いてみたかった気持ちもあるってこと。 分かんないかなあ??」 「――――……」  …………まあ。  何となく。分かる。が。 「悪いけど、もう、オレのだから。――――……て、別に悪くねえか」  そう言ったら、勇紀が、何だか複雑な顔で、はー、と息を吐きながら、両手で頬杖をついた。     

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