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第519話◇
ソファに戻ると、優月がオレを見上げる。
「もう良いの?」
「ん、もーいい。全然大したことじゃなかった」
言うと、優月がクスクス笑う。
「でもすごい続けてぶーぶーいってたけど」
「あれは、今日行ったメンバーがスタンプとか入れてきてただけ」
「そっか」
ふふ、と笑って、優月がまたコーヒーに口を付ける。
「そのコーヒー、苦い?」
「ん?……あー……少し?」
「アイス甘いから、少し苦いのにしたんだけどな……食べながら飲むんじゃなかったら、いつものにすればよかったな」
「平気、美味しいよ……って、ミルク入ってるし」
「あ、優月のには入れた」
笑いながら頷いて、優月を見つめると、優月はじっとオレを見上げた。
「ありがと。美味しい」
「ん」
手が自然に、頭に伸びる。
優月が微笑む。
「……玲央ね」
「ん?」
「いつも、オレの頭、撫で過ぎだと思うんだけど……」
クスクス笑う優月。
「……撫でるの、嫌か?」
そう聞くと、えっ?と不思議そうな顔でオレを見上げる。
「そんな訳ない……」
そう言って、にっこり笑う。
「嬉しいよ」
……可愛くて、撫でながら、頬に触れる。
「お前を撫でるやつ、他にも居るだろ」
「……」
「……居るよな?」
「んー……? たまにいるかなあ……」
「だよな」
なんか見かけたし。
撫でられやすいだろうなとも、思うし。
「……でも、玲央みたいな意味じゃないよ?」
そう言う優月に、そんなの当たり前。つーか、そんな意味で撫でてたら潰す。……と一瞬思ったけれど。
「……オレみたいな意味って?」
「え」
「何? オレみたいな意味って」
分かってるけど、聞く。
……分かってて聞いてるのを、きっと優月も知ってる。
……自然と言ったらしく、改めて聞かれて、考えて、恥ずかしくなったらしい。マグカップを口に持ってって、恐らく、ちょっと隠れようとしてる。
「隠れられないから。優月」
笑ってしまいながらそう言うと、優月はますます恥ずかしそうな顔をする。
「……玲央が……オレを撫でるのは、どういう意味……?」
「――――……」
……はは。
逆に聞いてきた。
「んー。……すげえ可愛くて、キスしようかなー、撫でようかなーと思いながら……かな。言ったろ、外でキス出来ない時、撫でてるって」
「…………っ」
「つーか、家ん中だと、正直ずっと触っていたいけどな」
頬にすり、と触れながら、そう言って見つめると。
びっくりした顔で、オレを見ていた優月は。
ぽぽぽ。
急に、赤くなって。
困った顔のまま、マグカップを握り締めている。
「……お前は、そういう意味でさっき言ったの?」
「――――……」
なんだか、ぷるぷると首を振っている。
「そこまで考えてないか」
クスクス笑いながら、頭を撫でてやると、うんうん頷いている。
「……勇紀がさ」
「……?」
急に勇紀の名を出したので、少し不思議そうにオレを見上げる。
「優月のカミングアウトうまくいったのか気にして、連絡してきてた」
「……あ、そうなんだ。皆に言ってたの?」
「そう。軽くな」
「そっか」
「大丈夫そうだったって伝えたら、良かったって。颯也と甲斐も、良かったなって感じだった」
「……心配、してくれてたんだ」
優月は、ふ、と嬉しそうに笑う。
「そーなんだよなー……」
「……ん?」
「勇紀はまだ、優月と知り合って長いみたいだから分かるけど……颯也と甲斐まで、お前のこと心配するんだよな」
「――――……」
「知り合ってまだ短いのにな。絶対、何となく、可愛いと思ってると思うんだよな」
「ん……」
オレの言葉に、優月は、ちょっと不思議そう。
「……何?」
どうした? と聞いてみると。
「短いのにて、言うんなら……」
「ん」
「――――……オレと玲央も、そんなに、期間、変わんないよ?」
「――――……」
「……多分、颯也と甲斐って、玲央と会って少しで顔合わせたから」
「――――……」
……そういえば。そっか。
「なんかオレだけは、優月とずっと前から居る気がしてた」
そう言うと、優月はクスクス笑う。
「確かにずーーっと、ながい時間は、居る気がするね」
楽しそうに笑って、キラキラでっかい瞳でオレを見る優月が。
やっぱりすげー可愛いなと。
思ってしまう訳で。
「……会ってそんな経ってないんだよな」
しみじみ言うと、うん、と優月が面白そうにオレを見ながら微笑む。
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