513 / 856

第519話◇

 ソファに戻ると、優月がオレを見上げる。 「もう良いの?」 「ん、もーいい。全然大したことじゃなかった」  言うと、優月がクスクス笑う。 「でもすごい続けてぶーぶーいってたけど」 「あれは、今日行ったメンバーがスタンプとか入れてきてただけ」 「そっか」  ふふ、と笑って、優月がまたコーヒーに口を付ける。 「そのコーヒー、苦い?」 「ん?……あー……少し?」 「アイス甘いから、少し苦いのにしたんだけどな……食べながら飲むんじゃなかったら、いつものにすればよかったな」 「平気、美味しいよ……って、ミルク入ってるし」 「あ、優月のには入れた」  笑いながら頷いて、優月を見つめると、優月はじっとオレを見上げた。 「ありがと。美味しい」 「ん」  手が自然に、頭に伸びる。  優月が微笑む。 「……玲央ね」 「ん?」 「いつも、オレの頭、撫で過ぎだと思うんだけど……」  クスクス笑う優月。 「……撫でるの、嫌か?」  そう聞くと、えっ?と不思議そうな顔でオレを見上げる。 「そんな訳ない……」  そう言って、にっこり笑う。   「嬉しいよ」  ……可愛くて、撫でながら、頬に触れる。 「お前を撫でるやつ、他にも居るだろ」 「……」 「……居るよな?」 「んー……? たまにいるかなあ……」 「だよな」  なんか見かけたし。  撫でられやすいだろうなとも、思うし。 「……でも、玲央みたいな意味じゃないよ?」  そう言う優月に、そんなの当たり前。つーか、そんな意味で撫でてたら潰す。……と一瞬思ったけれど。 「……オレみたいな意味って?」 「え」 「何? オレみたいな意味って」  分かってるけど、聞く。  ……分かってて聞いてるのを、きっと優月も知ってる。  ……自然と言ったらしく、改めて聞かれて、考えて、恥ずかしくなったらしい。マグカップを口に持ってって、恐らく、ちょっと隠れようとしてる。 「隠れられないから。優月」  笑ってしまいながらそう言うと、優月はますます恥ずかしそうな顔をする。 「……玲央が……オレを撫でるのは、どういう意味……?」 「――――……」  ……はは。  逆に聞いてきた。 「んー。……すげえ可愛くて、キスしようかなー、撫でようかなーと思いながら……かな。言ったろ、外でキス出来ない時、撫でてるって」 「…………っ」 「つーか、家ん中だと、正直ずっと触っていたいけどな」  頬にすり、と触れながら、そう言って見つめると。  びっくりした顔で、オレを見ていた優月は。  ぽぽぽ。  急に、赤くなって。  困った顔のまま、マグカップを握り締めている。 「……お前は、そういう意味でさっき言ったの?」 「――――……」   なんだか、ぷるぷると首を振っている。 「そこまで考えてないか」  クスクス笑いながら、頭を撫でてやると、うんうん頷いている。 「……勇紀がさ」 「……?」  急に勇紀の名を出したので、少し不思議そうにオレを見上げる。 「優月のカミングアウトうまくいったのか気にして、連絡してきてた」 「……あ、そうなんだ。皆に言ってたの?」 「そう。軽くな」 「そっか」 「大丈夫そうだったって伝えたら、良かったって。颯也と甲斐も、良かったなって感じだった」 「……心配、してくれてたんだ」  優月は、ふ、と嬉しそうに笑う。 「そーなんだよなー……」 「……ん?」 「勇紀はまだ、優月と知り合って長いみたいだから分かるけど……颯也と甲斐まで、お前のこと心配するんだよな」 「――――……」 「知り合ってまだ短いのにな。絶対、何となく、可愛いと思ってると思うんだよな」 「ん……」  オレの言葉に、優月は、ちょっと不思議そう。 「……何?」  どうした? と聞いてみると。 「短いのにて、言うんなら……」 「ん」 「――――……オレと玲央も、そんなに、期間、変わんないよ?」 「――――……」 「……多分、颯也と甲斐って、玲央と会って少しで顔合わせたから」 「――――……」  ……そういえば。そっか。   「なんかオレだけは、優月とずっと前から居る気がしてた」  そう言うと、優月はクスクス笑う。 「確かにずーーっと、ながい時間は、居る気がするね」  楽しそうに笑って、キラキラでっかい瞳でオレを見る優月が。    やっぱりすげー可愛いなと。  思ってしまう訳で。 「……会ってそんな経ってないんだよな」  しみじみ言うと、うん、と優月が面白そうにオレを見ながら微笑む。

ともだちにシェアしよう!