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第520話◇

「コーヒー飲み終えた?」 「うん」 「片付けてくるから、優月、歯、磨いてきな」 「一緒にするー」  ふわ、と笑って立ち上がる。 「……大丈夫なのか? ぽわぽわしてんのは」  クスクス笑いながらそう聞くと、優月は、んー、と考えてから。 「うーん……ふわふわはしてる」  少し首を傾げて、なんか変な感じ、と優月は笑う。 「でも別に、一緒に出来るよ?」 「ん。じゃあマグカップもってきて」 「うん」  先を歩き出すと、後ろからマグカップを持ってついてくる。 「――――……」  このポヤポヤ感は、あれだな。  ……親鳥についてくる雛みたいな、感じ?  このままどこまでも、だまってついてきそうな気がする……。  振り返って優月を見て、クスクス笑ってしまうと、優月は、きょとんとしてオレを見る。流しにマグカップを置きながら、「なに? 玲央」と笑う。 「……なんでもないよ。早く片付けて、歯磨いて、ベッドいこ」 「――――……」  オレをじっと見つめた後で、うん、と頷く。  オレが手早く洗い始めると、隣で水で流しながら、優月がオレを見上げる。   「玲央……」 「ん?」 「今日って……あの……」 「ん」 「……す、る……?」 「――――……」  ものすごく恥ずかしいみたいで、自然と俯き加減になるものだから、完全に、上目遣い。 「――――……」  今更。  ……上目遣い、なんかに。  ――――……こんなに煽られるとか。  「……ほんと、お前って……」 「……?」  見上げてくる優月の方に顔を傾けて、背をかがめて、唇を重ねた。   「……っ」  手は泡だらけなのでいつもみたいに頭を抑えられないけど、優月も引かずに受けとめていてくれる。少し唇を押し付けてから、ゆっくり、離した。 「――――……かわいいな……」  至近距離で見つめていると、自然と口からそう漏れた。  すると、かあっと赤くなって、顔を少し引いた。 「玲央、あの……水……」 「ん」  出しっぱなしなのは分かってたので、す、と離れて、洗い物の続き。  少し沈黙の後、優月が、ぽそ、と言った。 「――――……玲央って、さ」 「ん」 「……もうさ」 「うん」 「……普通の人じゃない位さ」 「……うん?」 「……顔、綺麗……ていうか……カッコいいっていうか……」 「――――……」 「……全然慣れない気がする、オレ……」  変なこと言いながら、俯き加減で、泡を流してる優月を、少し覗き込むと。  まだ顔が赤いままで。ちらっとオレを見てから、優月はなんだか唇を尖らせる。 「……こんなに一緒に居るのに……玲央が、もう、強烈すぎるから……」  ……なんか可愛い。クスクス笑ってしまうと、優月は、ぶつぶつ、可愛い文句を言いながら、視線を逸らしたままで、洗い終えた。オレも手を洗って、タオルで拭くと、優月を抱き寄せる。 「……そんな、オレの顔、好き?」 「――――……嫌いな人、いないと思う」 「優月が好きかどうかだけでいいよ」 「……だいすき、だよう……」  じっと見つめてると、むー、と口を閉じて。  その後、額を肩にこつん、とぶつけてくる。 「……なんか、こんなカッコいい人に、する?とか、オレ、何聞いてるんだろうって思ったら、めちゃくちゃ恥ずかしくなってきて……」  ぐりぐり肩に、額を押し付けてくる優月に笑ってしまう。  ああ、それでこんなに、照れてんのか。  ――――……はは。  何で、こんなにかわいーのかな。

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