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第572話◇

 二限が終わって皆と食堂にやって来た。  食事を買って席に座ってると、一限で一緒だった皆も偶然やってきて、なんだか近くで固まった。 「皆、なに食べてんの」  あとから来た皆に聞かれて、食べていた皆がそれぞれ答えてる。  よくする会話なんだよね。同じ学食で過ごす人も多いから、わりとメニューに飽きてくると、人が食べてるのを見て決めたりする。 「優月は?」 「アジフライ定食、だった。アジフライ食べちゃったけど」  答えると、と笑いながら、 「オレもそーしよ」  なんて言いながら、後から来た皆が食事を買いに離れて行った。 「なあ、優月の恋人の話ってさ、どこまで知ってんの?」  隣の友達がそう言って、オレを見ると、そのセリフが聞こえた皆もこっちを見た。 「そうなんだよな、これ、仲良い奴しか知らねえの?」 「今の皆は知ってんの?」 「うん。今の皆は知ってる。金曜にクラス会で言ったから、クラスの人は結構知ってる」  そう言うと、皆は何だかクスクス笑う。 「秘密じゃない訳ね」  そう言われて、うんうん、と頷いて見せる。 「オレの恋人が男の人っていうのだけなら、全然。秘密じゃなくていいよ」  ありがと、と皆に言いながら、もぐもぐ食べていると。  皆が興味深そうにオレを見つめる。 「どんな相手か気になるんだけどー」 「なー? ほんとだよなー」 「優しい?」  聞かれて、「うん」と頷くと、「まあそりゃそうか」と皆が笑う。 「優月が付き合う奴が優しくない訳ないよな」 「怖い奴と付き合わないだろ」 「――――……まあ……うん……」  そう言われたら確かに、そう、な気もするけど。  怖い奴ってどんなかな……。  そこで、ご飯を食べ終わって、ごちそうさまーと言っていたら、隣の友達がふっと気づいたようにオレを見た。   「なあ、オレ、ちょっと気になってる人は居るけど」  その言葉に、え?と、オレと皆が注目すると。 「最近優月と居るの見るようになって、なんかすっげー、雰囲気ある……」  オレが思い切り、あ、と口を開けて。  どうしよう止める? 止めるのも不自然? いやでもな。  どうしようかと思いながら、そのセリフを聞いていると。  言ってた友達はオレの顔に気付いたみたいで、あ、と固まってから、苦笑いを浮かべた。 「ああ――――……っと。何でもない。ないない」  そう言ったけど。  周りの皆も、もうそこまで聞いたら思い当ってしまうみたいで、「あー……」と、ちょっと固まってる。 「何でもない、マジで」  言い出した友達は、何だか必死になって言ってるけど。  オレが、大丈夫だよと、言おうとした時。周りの皆も笑い出した。 「ないない」 「無い無い無い無い」  皆が言いながらクスクス笑うので、意図には気づいて、オレも笑って頷いていた時。   「あっ優月ー」  勇紀が少し離れた席から、おーい、と手を振ってくる。 「優月、何食べたー?」 「アジフライ定食ー」 「あっオレもそれにしようと思ってたんだ。買ってくるー。じゃね!」  バイバイ、と手を振って笑顔を交わしていると、そこに甲斐も現れたので、手を振る。  玲央は居ないのかなあ、なんて思っていたら。 「あいつはたまに優月と居るの見た事あるよな」  そう言われて、「うん。勇紀、仲良しだから」  ふふ、と笑ってると。  ぽん、と頭を叩かれた。  振り仰ぐと。  ――――……何となく分かってたけど。玲央、だった。 「玲央」 「何食べた?」 「アジフライ定食……」  オレ今日これ言うの、何回目? と可笑しくなってきて、笑ってしまうと。  玲央は、ん?と微笑む。 「ううん。玲央は何食べるの?」 「んー。見てくる。じゃな」 「うん」  バイバイ、と手を振って。玲央が甲斐の方に歩いていくのを見送る。 「うーん……」 「んー……」 「んーんー……」  隣で変な声を出し始めた皆に、ん? と見回すと。 「何でもない」 「気にすんな」  といわれるけど、引き続き、皆が唸ってる。  んー……と、黙った後。オレ。  可笑しくなって、吹きだしてしまった。  あ、と、両手で口元押さえてると。 「つか、お前が笑うなよ」 「そーだよ、こっちは我慢してるんだっつの!」    うん、多分そうなんだと思う。あーなんか……。  皆、大好きだなあ……。  なんて思うと、なぜだかますます可笑しくて、笑ってしまう。   (2022/10/19) 次またちょっと夏の番外編です♡

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