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第529話◇

 少し位置をずらして、後ろ姿、とか、また斜めから、とか。  心ゆくまで玲央をスケッチしてたら、ふと気づくと、お昼を回っていた。  ソファにスケッチブックを置いて立ち上がるけど、玲央は、気づかないみたいだった。  そーっと歩かなくても全然大丈夫だと気づいてきたので、普通にドアまで歩いて、ドアを開けた。部屋を出ながら玲央を見るけど、全然動かない。  ドアを閉める最後だけは静かに音をたてないようにしたけど。  多分、パタンて閉めても、気づかないような気すらしてしまう。 「――――……」  ……ちょっと寂しい。  けど。  玲央があんなに集中して、どんな曲が出来るのか、もう、本当に、楽しみでしかない。  ふふ、と自然と笑みが零れて、何だかウキウキしながら、オレはキッチンに向かった。  パンにバターを塗って、レタスと卵とハムとトマト、ツナを用意。  挟んで、三角に切って、お皿に並べる。 「――――……」  玲央はいつ食べるかなあ。  もしかしてごはん抜いちゃう感じかな。  ――――……初めて、見た、曲作ってる玲央。  玲央はオレと居るようになる前は、夜遊んでて寝るの遅くて、だから朝も遅くてとか言ってた。きっと色んな人と夜、遊んだりしてたんだろうなあ……と何となく想像はできる。まあ、細かいとこ、よく分かんないけど。  なんとなく、オシャレな感じのお店で、オシャレな人達に囲まれて、遊んでたのかなって思ってる。  ……でも、バンドの練習は本当に、一生懸命やってたし。  曲も、やる前から「集中すると構ってあげられない」とか言ってるくらいだから、きっとあんな風に、真剣にやってたんだろうなあ、と、そう思うと。  遊んでただけじゃなくて。もともと、そういうとこがある人なんだと思うし。……めちゃくちゃカッコいいなあと思って。  だめだ、もう、胸が痛い……。  はあ、と息をつく。  朝淹れて、アイスコーヒーにしておいたのを取り出して、グラスに注ぐ。  せっかく作ったし、お昼食べてほしいし。一緒に食べたいし。  玲央に持って行きたくてしょうがないけど。  でも我慢しよ。  曲、出来たら聞かせてくれるかなあ……。  発表するまで内緒とかあるのかな?  聞きたいなぁ……。  あれこれ色々思いながら、玲央のご飯にラップをかけて、冷蔵庫に。  一人で、自分の分のサンドイッチとコーヒーをテーブルに運んで、椅子に腰掛ける。 「いただきまーす」  言って食べ始めるけど。  ……うん、静か。  ここで食べる時、玲央が居ないとかないもんね。  視線の先に、大きな窓から見える、綺麗な青空。  良い天気。  ぼー、と空を見ながら、食事を続ける。  何だか、ただ、ぼー、と。  何でオレは、ここに居るんだっけ。  と、不意に浮かんで、不思議な気分。  ……玲央のこと、好きになったから、かぁ……。  オレのマンションに、ここしばらく帰ってない。  ……早めに父さんたちに話して、解約してもらった方が、いいよね。  ――――……電話しとこうかな、あとで。  玲央がオレの家族に会いたいって言ってくれてたし。  ――――……いつ会いに行けるかも決めなくちゃ。  ……玲央を見たら、びっくりするだろうな。  こんなにカッコいい人がほんとに存在するんだ、的な感じかなあ。  ふたごたちの顔が目に浮かぶ。  父さんと母さんも、やっぱり、すっごい見そう……。  なんだか想像していると、ふ、と笑えてきてしまう。  面白いだろうなあ、皆の反応。  ――――……玲央と付き合ってるって、言ったら。  どうなるかな……。  なんか皆が「絶対反対」っていう姿は、全然想像できないんだけど。  それにしても、やっぱり、ちょっと特殊だから、すぐ、いいよって言ってくれるかは、ちょっと分からない。  玲央を家に連れて行くのは、とっても面白いけど。  ――――……もし、その話を打ち明けるなら、やっぱり、ドキドキだなあ。  思春期だし、ふたごたち。  嫌悪感とかでちゃう可能性もあるよね……。  うーん……。玲央のことは、絶対好きだと思うけど。カッコいい人好きだから。    色々考えて時々可笑しくなりながら、食事を続けていると。  家の奥で音がして、トイレのドアが閉まる音。  あ。トイレ?  ……何か飲むかなあ。それとも、そのまま、集中力保ったまま戻るのかな。  どっちの可能性もあるので、リビングのドアの所から、ちょっとだけ覗いてみる。  すぐ戻るつもりならこっちは見ずに、奥に向かうだろうし。  こっちを見てくれたら、ご飯食べるか聞こう……。  トイレから出てきた玲央はドアを閉めると、すぐに足をこっちに向けて、首を回しながら歩き始めて、オレに気付いた。 「なにちっちゃく覗いてんだ?」  クスクス笑いながら近寄ってきて、リビングのドアを開けると、オレの腕を掴んで引き寄せて、ぎゅっと抱き締めてくれた。 「――――……」  すっぽり、包まれて。  ドキドキと、幸せしか、ない。   

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