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第537話◇

【side*玲央】  ――――……寝た。  早い。……かわい。  腕の中の可愛い額に、ちゅ、とキスして、起こさないようにそっと起き上がる。優月の頭に手を置いて、サラサラの髪の毛にしばらく触れて、それから離れた。  部屋を出て、ふと気づく。  そういや今日、一切スマホ見てねえな……。散歩の時に持ちはしたけど、開かなかった。  楽器を置いてある部屋に戻り、机に置きっぱなしにしてたスマホに触れて画面を起動させる。  結構な数のメッセージ。ざっと確認して必要なものに返信し、最後に勇紀たちのメッセージを開いた。  玲央、作曲してんの? という内容。  金曜カラオケで、そろそろ曲作んねえとな、と話してたから。  今日は一日してた、と返すと、すぐ返事が来て、優月は? と聞かれる。  優月はって言われてもな……。 「なんとなく一緒に居たけど」と返す。 『玲央、完全に自分の世界入っちゃうもんな』と勇紀。 『さみしがってたろ』と甲斐。 『かまってあげた? ……あげたか』と颯也。  ――――……つか、なんなんだ。  なんと返そうか、スタンプでも送って無視するかと思っていたら、勇紀からグループ通話がかかってきた。  仕方なく応じると、画面に次々、全員表示される。 「土曜の夜に暇そうだな?」  オレがそう言うと、皆、苦笑い。 『オレ今日デートだったし』 『オレも』 『オレも最近仲いい子と遊んで帰ってきたとこ』  勇紀、颯也、甲斐の順に、そう言ってる。 「今日はオレはこもってたけど……」 『お疲れ。できそう?』  勇紀の言葉に、「これから続き。明日もやる。つかお前らも歌詞とか考えとけよ。曲はもってくから」と答えると。 『玲央がつけるんじゃねえの?』  勇紀が意外そうに言う。 「なんで?」 『えー、だって、優月への想いを歌詞にめっちゃしてくんのかと思ってー』  あははー、と勇紀が笑う。  残り二人も笑ってる。 「――――……」  まあそれもありか、と思ってしまうが。 「つか、一応考えろ」  そう言うと、一応って、と皆が笑う。  息をつきながら、ソファに腰かけて、会話しながらふと置いてある物に気づく。優月がさっき持ったまま眠っていた本。寝顔を思い出して、クスッと笑ってしまう。 『玲央、何見てんの』 『一人で笑うな、キモイぞ』  勇紀と甲斐のセリフに、うるさい、と言いながら。  その下にあるもう一つ。スケッチブック?と、何気なく手に取る。 『優月は? 寝てんのか?』  颯也の声に、ああ、さっき寝た、と答えながら、ソファの背もたれの上にスマホを立てて、スケッチブックを開く。パラパラと優月の絵をめくっていく。    好きなものを、好きだと思いながら描いてるんだろうなと感じる絵に、なんだか、微笑んでしまう。 「――――……」  終わりのほうで。  手が、止まった。  どう見ても。  オレだよな、と思って。  じっと眺める。 『どーかした?』  勇紀が気づいて、聞いてくる。  ――――……なんだか、少し、見せたくなってしまって。 「これ」  画面に向けて、スケッチブックを見せると。  数秒、間を置いてから。 『優月の絵?』 『玲央じゃん! 上手だなぁ、優月』 『美化されてね?』  颯也、勇紀、甲斐。  何やら、思っていた以上に盛り上がってる。  一通り聞いた後で。 「――――……とりあえず、曲、作る」  そう言うと、頑張れよーと口々に言い、通話が終わった。  そのまま、最後のページまで、めくっていく。 「――――……」  好きなものを好きだと思って描いてる。  他の絵を見始めた時に、そう思ったけど。  自分の絵は、余計そう思う。  なんか、きっと。  ……オレを好きだと思いながら、描いてくれてたんだろうなと。  伝わってくるみたいに描かれていて。  ――――……全然、優月を見てない、オレを、  こんな風に描いてる優月が、なんだか、とてつもなく、愛しい。  ゆっくり、スケッチブックを閉じると。  背もたれからスマホをおろして、ソファに置く。  そのまま。  静かな気持ちで、楽器の前に座る。  さっきまで作っていた曲はひとまず置いておいて。  なんだか浮かんできそうな気がして、ヘッドホンをつける。  そのまま肘をついて、しばらく考えていたけれど。  ――――……その内、弾き出した音は。  なんだかオレにしては珍しい音で。    一曲できるまでの時間。  圧倒的に、最速記録、だったと思う。

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