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第538話◇
「――――……」
ふー、と長く息をついて、それで気づく。
集中してると、時間の経過も忘れる。
三時か……寝るか……。
固まってる体を伸ばしてから立ち上がり、部屋を出た。
歯を磨いてなかった、と思って、歯ブラシをくわえて、磨きながら。
スケッチブック。勝手に見てよかったかなと、ふとよぎった。
優月は怒らないとは思うけど。
……なんとなく電話しながらパラパラめくり始めてしまった。
――――……でもオレが描かれてて。
優月にとったらああ映ってるんだと思ったら、嬉しくなる感じ。
絵に描かれるなんてそう無いしな。
――――……しかもあんなに……オレを好きなんだろうなと、感じるような、絵で。
優月を好きになって、一緒に居るようになってから、なんだか毎日穏やかで。時たま信じられない位熱くなって我慢できなくなるし。そんなのも初だし。優月と居ると、初めての自分に、たくさん出会う気がする。
何してんだ、オレ。
何言ってんだ、オレ。
よく思う気がする。
それでも、優月と居ると、そうなってもしょうがない気がしてて。
それでいいような気がしてる。
なんかそう思うと――――……優月と会うまでのオレは、何も考えず生きてたような……。相手の気持ちとか、考えず。勇紀とかが、マジで修羅場とか気を付けなよ、と言ってたのも、冗談じゃなかったのかもとか思ったりもする。
寝室のドアを開けて、静かにベッドに近づく。
寝かせた時は、向かい合っていたから横向きだった優月は、上を向いて右手は万歳、左手は腹の上。気持ちよさそうにスヤスヤ眠っている。
可愛い。微笑んでしまう。
いつも可愛いと思ってしまうけれど。
……別に女っぽいとか、そんなわけでもない。
食べてるとことか、頷いてるとことか、一生懸命な顔をしてる時とか。
……笑ってる時とか。幸せそうな時とか。
とにかく、自然と可愛いと浮かぶことが多い。
でも、幼くて可愛いとかでもない。
優月が話してくる考え方は――――……オレにとっては、目に鱗、なことも多い。
今までそんな風に思ったことがなかったり、そう思えばいいのか、と驚いたりすることもある。
だから――――……尊敬、の対象でもあるんだよな、優月。
今日みたいに、オレが完全に優月を視界に入れてなくても。
なんだかその脇で一生懸命動いてて。
今まで新曲作らなきゃと言って、没頭することはよくあったけど。
――――……詰まると、自分でも機嫌が悪いなってことも結構あったし。
それを周りにいる奴に指摘されたりもしていたから、オレ、かなり分かりやすく表に出してしまっていたんだろうとも思う。今となっては反省点だけれど。ひたすら一人で居たいと思っていた気がする。
でも、優月と居ると、何でだかひたすら和んでいた。
リビングから、ちっちゃく覗いてたり。
一人で散歩に行こうとしてたり。
しかも別にそれを拗ねてやってる訳じゃなくて、普通に。
きっと、リビングから声をかけなかったのは、オレがそのまま戻るならそれでいいと思ってたんだろうなと思ったら、なんか、ものすごく愛しくて、抱きしめたら、めちゃくちゃ笑顔になって。
あーもうすげえ可愛いな。と思った。
「――――……」
優月の隣に寝転んで、そっと抱き寄せると。
ん、と言いながら。すぽ、と腕の中におさまってくる。
……可愛いしか、ないな、これ。
よしよし、と撫でてから。眠りに、ついた。
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