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第540話◇

 朝、ベッドでひたすら優月を可愛がって抱き締めて、それから一緒に朝食を作った。食後に楽しそうに笑いながら、片付けは任せてね、お昼は昨日のシチューでグラタン作るからね~とウキウキしてる優月にキスしてから、オレはまた作曲開始。  しばらく集中していたけれど。  目が疲れて、軽く押さえて。そこで現実に戻り、時計を見ると、十二時半をまわったところ。  部屋に優月は居なかった。  ふと気づくと、昨日と同じように、飲み物のボトルが置いてある。  手に取って蓋を開けて、口をつけると、アイスコーヒーだった。  ――――……音楽をやってると、作曲に限らず、たまに、周りが見えなくなる時がある。  誰かが作った新曲を覚えようと、イヤホンで聞いてる時も、周りで話しかけられても、無視してた。  ……まあオレ的には理由があって。そもそもイヤホンをしてる時点で、なにかを聞いてる訳だし、それを中断させられる意味が分からない。  話しかける自由はあるかもしれないが、オレが、イヤホンを外して聞かなければいけない義務はない。……なんて、中高校生の時とかは、思っていた。  まあ……それを彼女とかにやると、大体不機嫌になる。  ひどいと、私とそれとどっちが大事なの、なんて話にもなるし、もっと面倒なのは、オレが無視したとか言って、泣き出すとか。で、大体おせっかいな友達がやってきて、無視するなんてひどい、泣いちゃったんだからね、とか……。  ――――……なんか、やな記憶を思い出したな……。  ふ、と息をついて、もう一口。  ――――……冷たくて。美味しい。  そっとこれが、置いてあるのが、優月らしいというか。  昨日もだったけど。  いつ飲むか分からないから、保冷機能のあるこのボトルなんだろうなあと思うと、そういう気遣いが、たまんなく愛しいというか。  せっかく飲んでリフレッシュしたし、もう少し続けようかなとも思ったが、オレは、パソコンを閉じ、楽器の電源も切って、立ち上がった。  優月が何してるかが、気になるし。  ちょうどお昼の時間だから、一緒に食べたい。  ドアを開けて出ると、畳んだタオルを運んでる優月と、廊下でかち合った。 「あ、玲央」  嬉しそうに笑って、タオルを抱えたまま、近寄ってくる。 「トイレ?」 「いや。――――……優月、どうしてるかと思って」  そういうと、きょとんとした後、めちゃくちゃ嬉しそうに、にっこり笑う。 「さっきまで玲央の後ろで本を読んでたんだけど……目が疲れたから、掃除して、洗濯はもう乾燥機で乾いてたから今畳んでて、これから、グラタン焼こうかなって思ってたとこ」 「そっか。ありがと。タオル片づけてくる。グラタン、一緒に食べるから、焼いて?」  優月の抱えてるタオルを受け取りながら言うと、「うんっ」と頷いて、ぴゅー、と小走りでリビングの方へ急いで消えていく。  ――――……はは。可愛い。  顔がどうしても綻んでしまう。    何だろうな。もう、なんか。  ――――……存在が、可愛いというか。  和むポイントをついてくるというか。  タオルを片付けてから、優月のところに向かう。 「タオルありがと、玲央」  キッチンで忙しそうにしながら、最初に言うのが、それ。 「――――……」  近づいて、後ろから、すぽ、と抱き締めてしまう。 「……ん?? 玲央? ちょっと、待ってて、今、チーズ……」  手にチーズを持ったまま、不思議そうにオレを振り返って、笑う。 「……コーヒー、ありがと、優月」 「あ。うん」  嬉しそうにオレを見上げてくる。  ……昔とはオレの態度も違うのかもしれないけど。  でも、まったく優月に気づかず、集中してるのは変わってねーしな。  それでも優月は、昨日からずっと、こんな感じのまま。 「チーズのせるまで、待って?」  その言い方が可愛いので、そっと離してやると、いそいそとチーズをのせて、オーブンに入れる。 「何分かかる?」 「んーと……十八分だって」  表示された時間を見ながら振り返る優月の手を取ると、ソファまで連れて行って腰掛け、引き寄せて、上に座らせる。 「――――……補充させて」 「……っ……」  下から、見上げると、かぁ、と赤くなって。  そのまま、ぎゅ、と抱きついてくる。    

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