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第542話◇
優月が並べてくれたグラタンをフォークで刺すと、中にマカロニ。
「シチューにわざわざマカロニ入れたんだ?」
「うん。だってグラタンだし……好きじゃなかったりする?」
「いや? 好き」
よかった、と優月が笑う。
「そういえば、玲央って、嫌いなものある?」
「――――……」
嫌いなもの……。
「そんなに思い当たらないかな……。食べたことないものはあるかもしれないけど」
オレがそう言うと、優月はクスクス笑って「ピスタチオとか?」と聞いてきたので、頷きながら、ふと。
「そういえば、ピスタチオって、何なの?」
「何って?」
「果物とか?」
「……ナッツ、だったと思う」
「ああ、そうなんだ……ああ、言われてみればナッツっぽいかも」
「うん。多分そう」
「……ナッツの形でも見たことないな」
「……オレも、ナッツの形では無いかも……オレが食べるのはアイスが一番多いかなあ……そういえばもともとどんな形なんだろ」
「もしかしたら、昨日のアイスの袋に書いてあったのかもな」
「……見てないね」
二人で、顔を見合わせて、ふ、と笑ってしまう。
「嫌いなもの無いなら、ごはん作るのはらくちん」
「優月は?」
「オレも、そこまで絶対食べれないってものはないかな」
「そっか」
「うん」
優月は頷いてから、ふとオレを見上げてくる。
「玲央が大好きな食べ物って?」
「大好き?」
「うん。一番……ていうか、いくつか好きなの」
そう言って、なんだかとてもわくわくした顔でオレを見つめてくる。
「……大好きか。えーと……」
「うんうん」
「……刺身とか寿司とか……餃子。ラーメン。カレー……」
よく食べるものを思い浮かべながら挙げていると、不意に優月がクスクス笑った。
「よかった」
「ん?」
「お刺身とかお寿司が先に来たから、すっごい高級なお店のかなって、ちょっと思ったの」
「――――……」
「そしたらその後、餃子とかラーメンとか、カレーとかになったから。なんだかちょっと嬉しくなっちゃった」
なんだかすごく楽しそうに笑って、そんなことを言ってる。
食べ物の好き嫌いの話をしてる、ただもう世間話並みの、普通の会話なのに。……何でこんなに可愛いのだろうか。
不思議すぎる。
「カレー今度一緒に作ろ」
「うん!」
「色んなスパイス買ってこよっか」
そう言うと、優月が、ん?とオレを見つめる。
「んん? もしかして、ルー使わない?」
「んー、使ってもいいけど。使わなくてもうまいよ」
「へー……」
なんだかすごくキラキラした顔でオレを見てくる。
「作る作る。オレ、一から作るの初めて」
「――――……」
「楽しみー。いつ作ろっか」
なんだか本当に、楽しそう。
――――……あぁ、可愛い。何なの、これ。
可愛いを言い過ぎな自覚があるし、こんな、カレーの話を普通にしてて、急に可愛い言われても困るかなと思うので、咄嗟にちょっと堪えるが。
手は勝手に動いて。
「――――……?」
よしよしされた優月がきょとん、としてオレを見上げてくる。
「……?」
ふふ、と笑んで、でも少し不思議そう。
何で撫でたのかな? と思っているんだろうなと思うと。
抑えようと思ったけど、つい、笑ってしまって、口元、握った手でちよっと隠していると。
優月がますますきょとん、として、オレを見てる。
「――――……あーもう」
後頭部に手をまわして、そっと自分に引き寄せる。
「……可愛い」
耐え切れずに結局そう言って、優月の頬にキスすると。
きょとんとしていたけれど、すぐに、嬉しそうに笑った顔を見て。
やっぱり言った方がいいのかも、と思った。
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