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第546話◇

 家に電話すると、母さんが出たので、少しだけ顔見せに帰るね、と伝えた。  母さんは、二人の喧嘩? と聞いてから、「長いよねー、今回」なんてクスクス笑ってる。やっぱり知ってて放置してるんだなあと思いつつ、まあ、それで双子がオレに頼るんだから、それはそれで、なんとなくうまくいってるんだと思う。  少し話した後、友達を連れてくね、とだけ伝えた。  運転してくれる玲央に視線を向けて、「玲央、よかったの? 曲作るの」ともう一度聞いてしまうと、玲央は前を見たまま、平気、と笑った。 「平気っつーか。行きたいんだよ」  クスクス笑う。 「とりあえず一曲は出来てる。もう一曲、昨日から作ってる方が少し詰まってるから、気分転換したかったし」 「あ、もう一曲はできたの?」 「そう。だから、往復一時間と話してる間くらい、全然平気」  そう言われて、そっか、と少しだけ安心。 「もともと締め切りがある訳じゃないし。なんとなく早めにってことでこの二日間、使ってるけど」 「そっか。 あとで、できた曲、聞かせてもらえる?」 「まだ歌詞はないから曲だけな?」 「うんうん」  めちゃくちゃ楽しみ。  うんうん頷いてから、プリンの紙袋を覗く。 「美味しそう、プリン」 「一樹、が好きなんだろ?」 「ううん、樹里も好き。二人とも、プリンが一番好きなおやつかも」 「そっか。――――……機嫌直って、すぐ仲直りするといいけどな」  そう言われて、ちょっと考える。 「もしかしたら、一緒に来てもらっても、そうなるかもしれない」 「ああ、そんな感じ?」 「……分かんないけど、あの子たち、あるかも。そしたらわざわざ一緒に来てくれてるのにごめんね」 「何で、ごめん? その方が良いじゃん。そしたら、仲良くプリン食べて、帰ろうぜ」  ちら、と一瞬オレを見てから、笑いながらそんな風に言う玲央。  ……大好きすぎて、思わず、じっと見つめてしまう。  信号で止まると、ん?とオレを見つめ返しながら。  よしよし、と頭に手が触れる。 「今日はさ、じっくり話す時間もないし、恋人とかそっちは話さないけど……」 「うん」 「引っ越しのことは話せたら話そ」 「うん」 「すぐオッケイでなくても、また次回でも良いし」 「オッケイがでないってことはないと思うんだけど……」  そう言ったところで、信号が青になって、玲央の手が離れる。 「あ、玲央、その道、入って」 「ん」 「そしたら、あの信号、右折で……」  家にどんどん近づいていく。  ……今日は、関係をばらす訳じゃないから。別に緊張する必要はないとも思うのに、何でだか、ものすごく、ドキドキする。 「ここだよ。父さんは仕事だから、駐車場停めて良いって」 「分かった」  玲央が、後ろを振り返って、ミラーを見ながら、バックで車を停車させる。 「――――……絵になるね……」  思わず言った言葉。玲央は、オレをふっと見つめて。それからプッと吹き出した。 「駐車してるだけだし……」  笑いながら、車を止めて、サイドブレーキをかけてから、エンジンを切る。 「……それでもこんなに絵になる人、居ないよね」  しみじみうんうん頷いてると。   「ぁ、優月。外」  え、とそちらに視線を向けると。 「あ」  樹里が覗いてて。一樹はちょっと下がったところに居る。  母さんは、玄関から出てきたところで、待機してる。  玲央と顔を見合わせて、何となく笑いあってから、シートベルトを外して、車の外に出る。 「ゆづ兄」  笑顔の樹里と、ちょっとふて腐れてるけど、やっぱり嬉しそうに顔がほころぶ一樹。 「ただいまー」  言うと、ますます笑顔になる二人。 一樹ももう笑っちゃってるし。  ……かわい。  こっちまで、笑ってしまう。 「母さん、ただいま」 「おかえり、優月」  そう言って。隣に来た玲央を、オレが振り仰ぐと。  三人も、玲央のことを見て。  はー、と、言葉を失ってる。  ……分かるけど。  分かるけど、皆……。  ぽけっとしないで。  思った瞬間、ふ、と吹き出してしまった

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