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第548話◇
「玲央くんて、芸能人?」
プリンを食べ終わった樹里がそう言った時。
一樹が「絶対芸能人」と、ぼそ、と言った。
多分、皆、あ、と思ったんだと思う。
樹里はなんて言うかなと思ったら、ぱっと一樹を見て、嬉しくてしょうがない、て顔で「そうだよねっ」と笑った。すると一樹も、「だよなー」と元気に言い出して、身を乗り出す。
「「芸能人でしょ?」」
二人の言葉が同時に飛び出す。
あ。もう平気そう。
可笑しくて、口元隠して、笑ってしまっていると、玲央がちらっとオレを見て、ふ、と笑んだ。
すぐに一樹と樹里に視線を流して、玲央が笑いながら「何の芸能人だと思ってんの?」と聞く。
「え、やっぱり芸能人なの?」
と樹里が大はしゃぎ。
「んー。ちょっと違うけど……テレビとかには出てないけど、人の前に立つことはあるかな」
玲央がそう言うと。
「「モデル!」」
あ、またかぶってる。
「モデルじゃないよ」
えー違うのー?と二人、顔を見合わせて、あれやこれや、言っている。
少し離れたカウンターで紅茶を入れ終えた母さんがオレを見て笑った。
「来てくれただけで、解決しちゃったね」
「ね。ていうか、玲央が居るだけで、な気がする」
特に話し合うとかでもなくて、完全に元通り、笑ってるけど。
後で少し話せばよさそう。もう仲直りしてるも同然。
「玲央くんに紅茶持っていってあげて」
「うん」
二つ、紅茶を持って、玲央の近くに歩いて、テーブルに置いた。
玲央の隣に座ると、「ゆづ兄は知ってるの、玲央くんが何の芸能人か」と、二人に見つめられる。
「うん。知ってるよ」
答えると、えーーずるーい、と言われる。
「ずるいって……」
クスクス笑ってると、玲央もオレを見て、ふ、と笑む。
「分かる?」
玲央の言葉に、んー、と、首をかしげてる二人。
「答え言う?」
しばし考えていたけれど、二人は、うん!と同時に頷いた。
「なんかさっきからちょくちょくシンクロを見てる」
言って、玲央がオレを見て、笑う。
「いつもそうなんだよね……」
オレも笑って返していると、二人が「早く教えてよー」と騒いでる。
「バンドのボーカルをやってるよ」
玲央がそう言うと、二人は一気に大興奮。
「歌手ってこと?? すごーい!!」
「どんな歌?? 聞きたいー!!」
大騒ぎな二人に、玲央がスマホを取りだす。
「ライブの映像ね」
少しスマホを操作して、はい、と二人の前に置く。
二人めっちゃ近づいて、仲良しでライブ映像を食い入るように見始めてる。
少し離れたので、玲央がオレを振り返って、笑って、ちょっとこそこそと。
「もう平気そう?」
「うん、多分」
オレが頷くと、ふ、と目を細めて。「シンクロ率がすごい」と笑う。
「ふふ。そーなの。不思議でしょ」
「ああ」
クスクス笑い合いながら、二人を眺める。
「あ、玲央、プリン食べる?」
「ん、オレいいや。紅茶もらっていい?」
「食べない?」
「ん。しまっといて」
甘いのあんまり食べないからかなと思ったけど、もしかして二人に置いてこうとしてるのかなあと思って。
「じゃあオレもいいや」
そう言うと、玲央はふ、と笑いながら紅茶を飲み始める。オレと玲央の分を冷蔵庫にしまってから隣に戻ると、玲央は「また買いにいこ」と笑った。
「うん。ありがと」
「別に……」
クスクス笑って、玲央がオレを見つめる。
スマホの映像から顔をあげた二人は、めちゃくちゃキラキラした顔で笑顔を向けてきた。
「カッコいいー」
「一緒にやってる人たちも、皆カッコいい!」
さすが樹里は、メンバーも見てるらしい。
「その人達も知ってるよ。一緒にご飯食べたりしてる」
オレが、ふふ、と笑って言うと、「ずるいー!」と叫ぶ二人。
「じゃあ玲央くんと写真撮らせて」
「樹里、ずる! オレも撮る」
わあわあ騒ぎながら、いい??と玲央に聞いてる。
「いいけど……」
笑いながら、玲央が二人に頷いてる。
「撮ってもいいけど、他の人に送らない?」
オレが言うと、「見せてもいい?」「自慢するから」と二人が玲央に聞く。
「自慢?」
「めっちゃイケメンの人と写真撮ったって。な?」
「そう! ねー?
きゃっきゃと楽しそうな二人。
……多分、喧嘩してて、ようやく話せたのも、嬉しいんだろうけど。
とりあえず。テンション、めちゃくちゃ高い。
……玲央のことは、大好きになってるらしい。
まあ。そうなるだろうなと、思ってたけど。
ふ、と笑みが零れる。
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