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第553話◇
手を繋いでたのは、道がまっすぐな間だけだったけど、なんだか幸せ気分を満喫するには十分だった。玲央のマンションに帰ってきて、オレは夕食づくり、玲央は作曲の部屋に戻った。
「良い気分転換になった。すぐ出来そうな気がする」と言いながら笑顔で部屋に消えていったし、夕飯一緒に食べれたらいいなあ。と思いながら、とりあえず焼き鳥の下ごしらえに入る。少し広げて切って、ネギと一緒に串に刺していく。
さっき買い物に行ってから、まだほんの数時間。
実家に帰ろうって思ったのも唐突だったのに、玲央も一緒に行って、向こうで過ごしてから、今もうこの家に帰って来てる。
なんか不思議……。
一人で帰って、一人で戻ってくるつもりだったのに。
一緒に、行ってくれるんだ、って。今更ながら、なんだかすごくありがとうって思ってしまう。
母さんのあの感じだと……多分少し勘づかれてて。確信とまではあと少し足りないのだろうけど、きっと、ほぼ分かってる……。
それであの感じなんだから……。
母さんっぽいなと、思うけど。
双子も多分、あの調子で玲央が好きなら、大丈夫かなあ……。
でもオレがそういう意味で玲央とって、分かるようになったら、嫌がられたり……どうだろう。人と違うことを、受け入れられない感じではないような気もするけど。まだ子供だからなあ……。
双子には、意味が分かるようになってから、ちゃんとしっかり話した方がいいのかもしれないなぁ……。
色々思い返しながら、ひたすら焼き鳥の串を作っていく。
切った肉とネギを串に刺し終えて、皿に並べて手を洗っている時に、電話が鳴った。急いで手を拭いて、テーブルの上のスマホを手にする。
「もしもし?」
『あ、ゆづ兄?』
「うん。どした?」
『今日ありがと』
その一樹の声の後ろで、樹里の「ありがとー」も聞こえる。
ふ、と笑んで、うん、と頷く。
『ゆづ兄、今も玲央くんと一緒?』
「え。あ、うん……今曲作ってるから一緒には居ないけど」
『玲央くんちに居るの?』
「うん。そだよ」
『また一緒に来てね』
「うん。行くよ」
『ゆづ兄は、玲央くんが好きなの?』
「ん?」
『樹里が、BLだーて騒いでるんだけど』
――――……ちーん……。
「な、なに? もっ回言って?」
『BLだよ、ゆづ兄ってば可愛いもんねっ』
――――……。
「じゅ、樹里?? 待って、意味分かって言って……」
『大体わかってる!!』
と樹里が向こうで叫んでるけど、一樹は「オレはよく分かんない」と不思議そう。
……えーと…………。
どっと疲れて、リビングテーブルの椅子に腰かける。
――――……えーと……。
ずるずる前に倒れながら、「あのさ」と、何とか声を出す。
「……仲良しなんだって、思ってていいよ」
『仲良しだってさ』
一樹が電話の向こうで樹里に言ってるのが聞こえる。
「またゆっくり会いに行くから……」
そう言うと、二人から「うん」という返事が返ってくる。
「樹里、今の話……」
オレがそう言うと、「ん?」と樹里の声がする。
「あんまり、他では……」
『大丈夫ー話さないようー。って、やっぱりそうなの?』
……樹里は、絶対わくわくした顔してるに違いない。
「……の……」
『の?』
「ノーコメントで……」
そう言うと、なんか二人が向こうでクスクス笑ってる。
『ノーコメントってことは違うんじゃないの』
『えーそうなのー? でもさぁ、玲央くん、超カッコいいしー』
『だからあの人絶対モテるでしょ』
『ゆづ兄もモテるもん!』
……何の会話なんだ。
「オレ、モテないけど……??」
『ゆづ兄のこと大好きな人いっぱい居るもん!』
「誰のこと?」
『いっぱい! おうちに遊びに来てた人たちとか』
「……ああ。なるほど……」
そう思ってたんだ。
うーん。友達だから、モテるとは違うんだけど……。
オレはもうさっきからずーっと、ぐったりテーブルの上につっぷしたまま。なんか起きれない……。
「オレ、今からごはん作るから……またね、二人とも」
『あ、うん、またねー』
『ゆづ兄、何作るの?』
一樹が聞いてくる。
「焼き鳥とかだし巻き卵とか……」
『いいなー焼き鳥ー! 今度また作ってー!』
「うん、いいよ。今度は泊まりで帰るよ」
バイバイを何度か繰り返して、ようやく電話を切った。
スマホをことん、とテーブルに置いて、ため息とともに突っ伏した。
「――――……びーえる……って……」
もー絶対へんなドラマか漫画か、友達の受け売りか……。
もー樹里ー……。
玲央の所に駆け込みたいのを抑えるのが大変だった。
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